犬と猫…ときどき、君



それから十五分後、時間通りにやって来た今野先生に、やっぱり“いつも通り”を装いながら挨拶をして、車に乗り込んだ。


「コーヒーの匂いする」

運転席で目を細めながら笑う今野先生も、やっぱりいつも通り。


「コーヒーの匂いって、結構髪とかに残っちゃうんだよね」

「……いい匂い」


赤信号で止まった車の中で、運転席から手を伸ばした今野先生が、私の髪をサラリと撫で、そのまま顔を寄せると、唇に優しいキスを落とした。


今日の私たちは、いつもと同じようで、いつもとは違う。


「どうしたの?」

「ちょっとビックリした」

「いいでしょ? たまにはこういうのも」

目を細めてクスクスと笑う今野先生は、グラグラと揺れる私の気持ちに気が付いているんだ。

それでも何も言わないで、私の傍にいてくれる。


「さて、どっちから観る?」

部屋に着いたって、その様子はやっぱり変わらない。


途中コンビニで買ったお菓子をガサガサとテーブルに出したあと、飲み物を取りにキッチンに向かうその後ろ姿に、胸が痛くなった。


――こんなに私を想ってくれる人の横で、私は春希のことを考えている。


“春希は本当に今日いなくなるのかな?”

“何時の飛行機なんだろう?”

“このまま話もしないで、離れていいの?”


だけど、もしも空港に行くなら私は……。

そこまで考えて、息を呑んだ。


だってそれって――“今野先生と、別れられる?”――そういうこと。

グルグルと堂々巡りするその自問に、答えが出ない。


答えが出せないまま、電気の消された部屋のソファーに座り込み、観たいと思っていた映画を彼の隣でただぼんやりと眺めている私って、一体なんなんだろう。


――だけど。


「胡桃」

不意に名前を呼ばれ、ハッとする私の目の前で、テレビに映っていた映画がプツッと消された。


正直、内容なんて覚えていなかった。

だけどその映画がまだ途中で、終わっていなかった事だけは確かで……。


「どうしたの?」

驚きながら声をかけた私に、今野先生が静かな声で言ったんだ。


「胡桃、今何を考えてる? てゆーか、誰のこと考えてる?」