犬と猫…ときどき、君



今野先生と会う約束をした水曜日、鏡に映る自分の顔は最悪だった。

こんな気持ちを抱いたまま、優しい彼に嘘を吐いて、居心地の良さに依存して。


そんなのって、本当に最低だ。


考えても考えても、別れた方がいいという結論に達するのに、きっとそれを言ったところで“俺はそれでもいいって言ったはずだよ?”と、笑う彼の顔が頭に浮かぶ。


春希とのことを全て理解して、いつも傍にいてくれた今野先生。

そんな彼の事を、一体どれだけ傷付ければ気が済むんだろう。


“それもいい”と言ってくれる彼に、甘え続けるのがいい事なのか、それとも、もっと傷付けたとしても、別れる方が正しいのか。


よく分からない。


それに、こんなにも必死に今野先生のことを考えているはずなのに、洗面所の壁にかけられたデジタル時計が気になって仕方がない。

そこに表示されている数字は、今の時間と今日の日付。


――二十四日。

今日、春希は日本からいなくなる。


誰にも見送られずに、たった一人で。


「……急がなきゃ」


自分の胸が酷く痛んでいることに気付いているくせに、気付かない振りをして、時間を確認しながらお化粧ポーチに手を伸ばした。


あと四十分もしたら、今野先生が迎えに来てくれる。


普通に出来るかな。

普通にしていて、いいのかな……。


洗面台に、数えきれないくらいの溜め息を落としながらお化粧をして、リビングに戻って、軽い朝食を取る。

昨日結局、手を付けられないままになってしまったコーヒーは、やっぱり飲む気にはなれなかった。


「淹れなおそう」

それを流しに捨てて、新しいフィルターに手を伸ばす。


いい匂い……。

部屋中に広がっていく匂いに、せっかく少しだけ心が安らいだのに、どんどん溜まっていくコーヒーをボーっと眺めていたら、なんとなく、大学生の頃の実験中の春希を思い出してしまって。


「困ったな……」

たったそれだけの事で泣きそうになるなんて、心なのか頭なのか、とにかく何処かが、本格的におかしくなっているのかもしれないと思った。