犬と猫…ときどき、君


それでも、考えることはやっぱり同じ。

春希はどうして、そんな嘘を吐いたんだろう?


――“でもハルキさん悲しそうで”


どうして?

自分で望んでそうしたんでしょう?


それだったらどうして――……。


「……あれ?」

どんどん溜まっていく茶色い液体をボーっと眺めている私の耳に、微かに聞こえる、断続的な低い音。


……携帯。


違うって分かっているのに。

違わないと、きっと私は困ってしまうのに。


コンロの火も止めずに慌ててリビングに戻って、もうすっかり静かになってしまった携帯を開く。

何故か緊張している私の喉元からは、唾を飲み込む音がゴクリと響いて。


「……」

震える手で持つそれに表示されていた文字を見て、一気に力が抜けて、それと同時に愕然とした。


【不在着信 今野先生】


私、最低だ。

握ったままの携帯が、手の中でまた小さく震え出して、それに、一度大きく息を吐き出す。


「今野先生? ごめん、携帯放置したままキッチンにいた」

いつも通りの口調で、動揺を覚られないように、言葉を紡ぐ。


「あー、ごめん。忙しかった?」

「ううん、平気だよ。どうしたの?」

いつもと同じ声のトーンで、いつもと同じテンポで。

こんなことを頭の中で考えているいる時点で、もうダメなのかもしれない。


「――何かあった?」

「何も……」

「あったんだ」

私の嘘は、こんなにも簡単に見破られてしまう。


「どうした?」

「……」

「胡桃」


――“くるみ”。

あぁ、ダメだ。


「本当に、何でもないから」

「……そっか」

「それよりどうしたの? 何か用事があったんじゃないの?」

「……」


今野先生は、きっと気付いている。

私の様子がおかしい事にも、その原因に、春希が関わっているという事にも――……。


それに気が付いた上で、

「こないだ胡桃が観たがってたDVD、丸井が貸してくれたから、明後日うちで観ないかなーって」

こんな風に、何も知らないフリをしてくれる。