犬と猫…ときどき、君



――ハルキさん、明後日いなくなっちゃうんです。


彼女の痛む胸からしぼり出されたその声が、どうしても耳から離れない。


あれから、もう一度「ありがとう」と言った私に、松元さんは頭を小さく振った。

そして「ごめんなさい」と謝罪の言葉を口にすると、隣で柔らかい表情を浮かべて彼女を見つめていた仲野君と共に帰って行った。


私はと言うと、誰もいくなった部屋で一人、椅子にペタンと座り込んでしばらく呆然としていた。

それで、いつの間にか部屋にやって来ていた聡君に「どうした?」と、目の前で声をかけられて、ハッとして……。


「ううん。何でもない」

絶対に“何でもない”とは思えないような笑顔を浮かべながらそれに答え、診察に戻った。


「明後日って、なによ……」

家に帰ってからも、当然そればっかりが頭を過って、何も手に着かない。


回しっぱなしにしていた洗濯乾燥機から乾いた洗濯物を取り出して、リビングに運んで、それを畳んでは手を止めて、ハッとしてまた畳み始めて……そのくり返し。


「明後日……」

もうすぐ日付が変わるから、もう“明日”か。

テレビの横に置いてある小さな時計に視線を向けて、そのまま携帯に手を伸ばす。


「……」

一体、誰に電話するつもり?


ほとんど無意識に呼び出していたその人と、最後に電話で話をしたのはいつだったんだろう。

もう発着履歴にも残っていないその名前を、アドレス帳から呼び出したところで手を止めた。


――このまま春希に電話してどうするの?


頭に浮かぶ自問に、答えられずに携帯を置く。


だって春希は、松元さんに“誰にも言うな”と言ったらしい。


それって、私を含め、他の人にも知られたくないってことでしょう?

知らせないまま向こうに行きたいから、みんなには三十一日に出発するって言ったんだよね?


それなら私だって、何も知らないフリをした方がいいのかもしれない。


「はぁー……」

どうしても働かない頭を少しでも動かしたくて、コーヒーでも淹れようかとキッチンに向かう。

コーヒーがサーバーに落ちて行くコポコポという音が、すごく心地よくて、しばらくそれをボーっと眺めて。