「また眉間にシワ寄ってる」
「え……?」
「シワ」
仕事のあと、久し振りに時間があって、一緒のご飯を食べていた今野先生が私の眉間を指差しながらクスッと笑った。
「また考え事?」
「……ごめん」
「いや、別に謝らなくてもいいけど、あんまり無理はしないで」
「うん。ありがとう」
その返事ににっこり笑った今野先生は、手元のメニューに視線を戻して「何にしようかなぁ」と、いつもと変わらない様子で首を傾げる。
今野先生は、本当はどう思っているんだろう……。
自分の生活がますます忙しくなる事は分かっていたし、狭いこの業界だから、どこかから話が洩れるだろうと思った。
何よりも、今野先生に隠し事してコソコソとする事ではないと思ったから、私は自分がしようとしている事を彼にもきちんと話すことにした。
それに対して彼は、「上手くいくといいね。でも、そしたら同じ病院で働けないのか」なんて笑ってみせたけど……。
正直、本音が分からない。
自分の彼氏をこんな風に言うのもどうかと思うけれど、今野先生は、良くも悪くも感情の起伏があまりなくて、穏やかなんだけど、どこか掴みどころがない。
春希に対してヤキモチを妬いてくれたあの夜以外、彼が感情を露わにしたところを、私は見たことがなくて……。
だから、本当は少し不安だった。
昔みたいに、気付かないところで大切な人を傷付けるのはもう嫌だと思うから、何回か「私がこんなことして嫌じゃない?」と聞いてみたんだけど。
その度に、返ってくる答えは同じ。
“どうして?”
“好きな子がやりたい事を止める必要あるの?”
それってきっと、私を心から信用してくれているから出る言葉なのだと思う。
だからその分、会っている時はきちんと今野先生のことだけを考えようと思うのに、頭の切り替えがうまく出来ない私は、こうして時々ボーっとしてしまうんだ。
「なかなか上手くいかない?」
「うーん……。そうだね」
「そっか。うちの病院も協力できたらいいんだけど、さすがにちょっとな……」
「ごめんね。そう言ってくれるだけで十分だから」
出された食事にお箸をつけながら、こうして一緒に悩んでくれるこの人は、本当に出来た彼氏だと思う。
心からそう思うから、こうして彼の優しさに触れる度に、それがまた自信に変わっていく。
――だから。
「おやすみ」
「おやすみ。明日も仕事頑張ってね!」
「胡桃も」
「うん――……」
こんな風に、帰りしなに車の中でしてくれるキスだって、すごく嬉しくて心地がよくて。
もうあの頃みたいに、泣きたくなったりなんてしない。
それはただひたすらに、“もう大丈夫”って、思わせてくれるんだ。

