犬と猫…ときどき、君



次の水曜日。


「胡桃?」

「あ……ごめん。えっと、何だっけ?」

映画を観終わって、映画館を出て、少し歩いたところで今野先生に顔を覗き込まれてハッとした。


「いや、昼飯どうする?」

「あーどうしよう。さっぱりしたのがいいかな」

「じゃーどうしようかなぁ……」


こんな事じゃダメだって、頭では分かってるのに。


「どうした?」

「え?」

「何かボーッとしてる」

クスッと笑って「車、気を付けて」と、私を気遣ってくれる彼に、胸がズキズキと痛む。


せっかく私に合わせて休みを取ってくれたのに、さっきから頭の中では、マコから聞かされた春希の話がグルグルと回っていた。


――“三十一日に向こうに行くらしいよ”


三十一日って言ったら、あと四週間しかない。

あの時は何とも思わなかったのに、家に帰って時間が出来たら、妙にそれが頭に浮かぶようになってしまって困っている。


それでもやっぱり、春希と連絡は取れなくて、その事が気になっているくせに、無理やり自分の気持ちを押し込めながら毎日を過ごしていた。


あの時マコは、まるで興味ないと言わんばかりに「あっそ」なんて言って見せたけど、きっと私が春希に“会わない”んじゃなくて、“会えない”んだっていうことに気付いているはず。


「じゃー和食の店でも行くか」

「うん!」


春希に会ったら、心が揺れてしまいそうで怖い。

隣で私の手を引くこの人を、傷付けしまいそうで怖い。

今野先生と一緒にいるって、もう決めたはずなのに……。


それなのに、なんで上手く行いかないんだろう。


悶々とする私の瞳に、部活返りなのか、すごく楽しそうにはしゃぐ高校生の姿が映って、少し前を歩く今野先生の背中から、すれ違うその集団に視線を移す。


高校生の頃って、何を考えてたっけ?

ただひたすらに勉強ばっかりしていた気もするけど……。

ぼんやりとそんなことを考えながら、視線を向けた、その奥。


「……っ」

通りを挟んだ向こうの歩道にいる人物に目が止まって、息を飲んだ。


――どうして、こんな所に?


胸がギュッとしめつけられて、呼吸が苦しくなる。

別に同じ街に住んでいるのだから、こうやって偶然会ったっておかしくない。


ただ、それがどうして今日で、今で、このタイミングなんだろう。


動揺を見せちゃいけない。

何も知らない振りをして、気づかない振りをして。

このまま通り過ぎてしまえばいい。


ドクドクと早鐘を打つ心臓を隠すように、下を向いたその時だった。