犬と猫…ときどき、君



家に戻ったところで、もちろん落ち着かない私は、軽く部屋の片づけをして、紅茶の準備をして、その後はソファーとキッチンをソワソワと行ったり来たり。


だって、何を話そう。


自分から話がしたいと思って連絡をしたはずなのに、ちょっと見切り発車だったかな?


「うーん……」

またソファーに座り込んで頭を抱えた私の手には、カサカサと音を立てる数枚の紙が握れている。

篠崎君から受け取ったそれは、彼女の名前が書かれたあの書類。


それをもう一度開いてみる。


これのために、春希はどれだけ自分の時間を犠牲にしていたんだろう。

逃げ出したくなるくらい大きくて、重たいものを、たった一人で抱え込んで。


こんな事をして春希を繋ぎ止めていた松元さんは、篠崎君の話によると、まだ春希と別れるつもりはないらしいけど……。


春希は一見無愛想だけれど、男女問わず、不思議と人を惹きつける何かを持っている人だと思うから、あんな風にどっぷりとハマってしまう気持ちも解らないでもない。


――でも。

松元さんにそれが伝わるほど、あの頃の春希は彼女に本音で接していたんだろうか?


むしろ冷たくあしらわれているところばかり見かけていたから、そこも何だかスッキリしない。


「よく分かんないなぁ……」

当然のことながら、人の気持ちを読む力なんて持ち合わせていない私に、彼女の気持ちは分るはずもないんだけど。

それでもきっと、そこまで春希に執着する理由があるんだと思う。


それを知って、何になるのかはまだ不明だけど、知ることが出来るものなら、知りたいと思った。


やっと気持ちが少しだけ落ち着いた頃、玄関のチャイムの音が部屋に響いて、それに少しドキッとしながら立ち上がる。

リビングのドアを開けて、真っ直ぐ続く廊下を進んで、玄関の前で一度深呼吸をした私は、ゆっくりとそれを開いた。


「――はい」

一気に明るくなった廊下に広がる、甘い香り。

それに一瞬、胸が苦しくなる。


「……こんにちは」

目の前に立っていたのは、あの日、春希の部屋で会って以来の松元さん。


「どうぞ。取りあえず上がって」

余所余所しい挨拶を交わした後、彼女の足元にスリッバを並べて部屋に入るよう促して、そのまま廊下を戻る。


「……」

まさか、いきなり後ろからブスッとやられることはないよね。


そんなバカみたいな事をこっそり考える私をよそに、大人しくリビングまでついてきた彼女は、部屋を少しだけ見廻した後、言われるがままに床に置いておいた丸いクッションに腰を下ろした。