犬と猫…ときどき、君



「出てけよ」

「……っ」

「今すぐ出ていけ!!」

その彼女に落とされた春希の声は、聞いているだけの私でも鳥肌が立つくらい、低くて、怒りに満ちた声だった。


どうしよう……。

私だって悪いのに。


状況をきちんと把握しきれなくて、痛いくらいにバクバクと音を立てる心臓。


「松元さん、あのね――」

“誤解だから”って、それだけでも伝えようと思った。


私と春希は、今は友達だけど、昔付き合っていて、それは絶対、松元さんからしてみたら“普通の友達”だとは思えない。

そんなの……不安になるに決まってる。


私がきちんと伝えないと、春希と松元さんの関係がこじれてしまうと思ったから、彼女の名前を呼んだのに、

「前も言ったけど、私絶対に別れないから」


春希を睨み付けながら言ったその一言に、私は言葉を飲み込んでしまった。


気持ちを伝えてしまったあの夜に、春希は松元さんのことをもっと大事にすると言った。

だから、二人は上手くいっているんだって、勝手にそう思い込んでいたのに。

「前も言ったけど」と言った松元さん。


それって、二人の間に別れ話が出ていたってこと?


何も言えないでいる私の目の前で、一瞬視線を落とし、感情を押し殺すように息を吐き出した春希が、またゆっくりと顔を上げる。

そして、松元さんの目を真っ直ぐに見据え、もう一度言ったんだ。


「帰れ」

それはさっきよりも静かな声。

でも、そこに含まれる怒りの感情が、嫌というほど伝わってしまう。


それが全身にビリビリと伝わって、思わず息を飲んだ。


「胡桃」

「……え?」

立ち尽くしたまま動けないでいる私の腕が、春希に優しく掴まれる。

そのままそれをグイッと引っ張った春希は、呆然と目を見開く松元さんを押しのけるようにしてリビングを出て、廊下の途中にある扉の中に私を押し込んだ。


「ホントごめん」

ザーザーと流れる洗面台の冷たい水音に、少しだけ震える春希の声が混じる。


「大丈夫だよ、これくらい」

水にさらされる私の手は、軽い火傷をして赤くなっていて、顔を顰めた春希が優しくそれを握る。


「ごめん」

さっきからずっと、心臓がうるさい。

でも……。


「それより、松元さんにちゃんと話してこないと」

リビングに取り残されたままの松元さんの事を考えたら、そのドキドキが痛みに変わってしまう。

それなのに春希は、黙り込んだまま何も言わなくて。