今野先生、まだしばらく終わらないのかな?
もしまだかかりそうだったら、ついには夜ゴハンを作り始めたらしい春希にも迷惑をかけちゃうし……。
だから、“また明日にでも”って、メールを打っておこうと思ったんだ。
その前に一口飲もうかと口元までもってきたコーヒーは、まだすごく熱くて、それをテーブルに戻して、携帯を開いた瞬間だった。
「……え?」
玄関のドアがバタンと開く音がして、誰かが廊下を慌ただしく駆けてくる。
さっきインターホンを押した宅配業者の人では絶対にないその音に、息を飲んで、春希に声をかけようとした。
「城戸――」
私がそう口にするのと同時に、春希も異変に気付いてキッチンから顔を出して……。
「……何で、いるの?」
私は開いたドアの前に立つその人の声に、体が凍りついたように動けなくなり、立ち尽くした。
「何でアンタがいるの!?」
「……っ」
本当に、一瞬。
一瞬すぎたから、混乱した頭では、尚更どうしようもなくて……。
私の目には、ツカツカと私の元に歩み寄った彼女が、テーブルの上のマグカップを手にしたところまでは見えていたのに、それを避けることまでは出来なかった。
「胡桃っ!!」
目を見開いた私の耳に、焦ったような春希の声が聞こえる。
「つっ――…!!」
だけど次の瞬間には、もう自分の手の甲と額の辺りに、もの凄い熱さを感じていた。
――熱い。
「何でアンタがハルキさんの部屋にいるの!?」
熱い……。
「何とか言いなさいよ!!」
それに、ヒリヒリとしてすごく痛い。
「……松本さん」
熱を持ったまま、ヒリヒリと痛み出した手の甲を押さえる私の目の前で、半狂乱で怒鳴り散らしているのは、久しぶりに会った松元さんだった。
「ねぇ、ホントに何なのあんた!!」
ポタポタと零れ落ちるコーヒーの香りと、甘い甘い、彼女の香り。
私は一体、何をしているんだろう。
またこうやって、彼女を傷付けて、春希を困らせて。
“テキストを取りに来ただけ”。
そうなんだけど……。
「ハルキさん!! どうして!?」
怒りの矛先を春希に向けた彼女に、何も言い返せなかったのは――……。
まるで昔に戻ったような、柔らかい春希との時間が心地よくて、もう少しだけここに居たいと思ったのは事実だから。
何を言えばいいのか、分からなかった。
でも、とにかく何かを言わないとって、そう思って……。
だけど、顔を上げた私の目の前で、春希が松元さんの腕をグッと掴むのが見えた。
「痛……っ」
どれだけ強くその腕を掴まれたのか。
顔を顰めて、小さな悲鳴を上げた彼女。

