犬と猫…ときどき、君



連絡が来たらすぐわかるようにと、ポケットに入れていた携帯は鳴らないまま。

その画面を確認したけれど、やっぱり今野先生からの連絡はなかった。


「……」
「……」

どうしよう。

流れた沈黙に顔を上げると、春希は少しだけ表情を緩めて、「コーヒー淹れるよ」と言い残し、キッチンに消えていった。


ちょっとだけ、気が緩んでいた。

“緩んでいた”というよりも、“緩めていた”の方が、もしかしたら合っているのかもしれない。


だって私は、心のどこかで――

「ほい。テーブルの上置いとくぞ」

「ありがと」

もう少し、この心地いい時間が続いてくれたらって、そう思っていた。


自分の分と、私の分。

二つのマグカップをテーブルに置いた春希は「腹減った」なんて言いながら、またキッチンに戻って、食べ物を探し始めた様子。

だから私は、勝手にダイニングチェアーに座って、淹れてもらったコーヒーにミルクを入れて、スプーンでクルクルしながら、ふと気が付いた。


「……」

憶えてたんだ。

テーブルの上にあるのは、マグカップとミルクだけ。


春希は、普段はイチゴオレなんて甘い物を飲むくせに、コーヒーはブラックが好きで、私はいつも、お砂糖は入れずにミルクだけを入れる。

きっとそれを憶えていた春希は、それが当然のようにミルクだけを私の前に置いた。


「……」

困ったな。

せっかく気持ちを切り替えようとしていたのに。


トクントクンと、また少しだけ鼓動を速め出した心臓を誤魔化して、何かを自分に言い聞かせるように、もう一度携帯を開いた時だった。


ピンポーン――……。


その電子音に驚いて、肩が小さく震えた。


ピンポーン――……。


「ねぇ、城戸」

「あー?」

「誰か来たっぽいよ?」

さっきまでキッチンで何かをゴソゴソと漁っていた春希は、人のことを放置して、今度は炒め物を始めたようで……。

リビングまで香る、いい匂い。


「あー、宅急便の再配達頼んでたんだ。悪い、オートロック解除しといて」

「……分かった」


キッチンから顔も出さずにそう言った春希の言葉に立ち上がった私は、言われた通りにロックの解除のボタンを押して、

「開けたので、どうぞ」

それだけ言うと、さっきまで座っていた椅子にまたストンと腰を下ろした。


キッチンからは、ジュージューという音と一緒に、相変わらずいい匂いが流れてくる。


……そういえば、お腹空いた。

仕事が終わってからまだ何もお腹にいれていない事に気が付いて、“クゥー”と小さな音を立てたお腹をさする。