犬と猫…ときどき、君



「私は、ハルキさんが好きです」

俺の腕をギュッと掴んで見上げる瞳は少しだけ涙ぐんでいて、だけどやっぱり、それはどこかニセモノ臭い。


この女、大学の時から泣き脅しが得意だったもんな……。


「気持ちはありがたく受け取っとくけど、もうアンタに構ってるヒマないんだ」

極力傷つけたくないとは思ってたけど、いつまでもダラダラやってたってしょうがないし。


「昔から何回も言ってるけど、俺が好きになるのは一人だけだよ」

“今は”なのか、“これからも”なのかは分かんねぇけど。


「胡桃じゃないとダメなんだ」

少なくとも今は、それ以外の人を見る余裕なんてどこにもない。


だけど、俺の言葉にまた黙り込んだ松元サンは、足元に視線を落として大きく息を吸い込んで……言ったんだ。


「別れないから。芹沢さんとやり直すなんて、絶対に許さないから!!」


あぁ、そっか。


「それは誤解」

「……は?」

「俺は胡桃とはやり直さない」

正確には“やり直せない”なんだけど。


「第一、胡桃の相手は俺じゃないし」

「……え?」

心底驚いた様子の彼女に、どこまで話そうか悩んだけど、これ以上胡桃に何かされても困るから。


「胡桃は、俺の友達と付き合ってるんだよ」

少しだけ笑いながらそう言ったけど、やっぱりまだ胸が痛いな。


グッと込み上げる感情を押し殺して、

「もう胡桃は大丈夫だから。だから、あの病院も必要なくなった」

ある意味正しくて、でも正解とも言えない、そんな理由を口にする。


眉を寄せる松元サンが、その意味をきちんと理解出来るはずもないんだけど、それで、胡桃に対する気持ちが薄れたらいいのに。

なんて……俺は考えが甘いのかな?


「じゃー尚更、私と別れる必要なんてないじゃないですか!!」


あー、やっぱりダメか。

松元サンの口から吐き出されるのは、やっぱり期待外れの言葉ばかりだ。


どうしてそうなるんだ?

何かもー、意味が分からん。


「私と付き合ってたら、病院なくならないですむんですよ!?」

頼むから……気付けよ。


「そうだ! おじいちゃんに言って、もっといい機械を入れてもらえるようにだって出来るし」

この女は、俺の何を見てる?


「それに、芹沢さんなんかより、もっといい獣医を――」

「お前さ、ホントいい加減にしろよ」

「……え?」

これが“好き”だなんて、笑わせんな。


お前の頭の中にあるのは、どうやって胡桃を出し抜くか、苦しめるか、俺から引き離すか。

そんなくだらない感情ばっかりなんだな。