「どうして……っ!? どうしてみんな、“胡桃”“胡桃”って!!」
それまで黙り込んでいた彼女の声が、静まり返った夜の住宅街に響く。
小さく震えて紡ぐ言葉は、きっと彼女にとっては、痛みを伴う言葉。
「あの人は何だって持ってるじゃない!! 綺麗で頭も良くて、友達だってたくさんいて、ハルキさんまでいる!!」
「……」
「それなのに、みんな芹沢さんの為に必死になって!! 私は……いつも一人なのに!!」
ポロポロと剥がれ落ちる、彼女の本音。
だけどさ、やっぱりアンタは分かってない。
「胡桃はさぁー、何でもかんでも、人にあげちゃうんだよ」
「……え?」
「バカみたいに、惜しげもなくあげるから、手元に何も残らなくてさ」
困ってるヤツがいるとほっとけなくて、自分がどんどん辛くなるのに、無理をして。
それでも“大丈夫!”って、笑うんだ。
「お人好しすぎて何も持ってないから、だから人が集まるんじゃねーの?」
不器用で、人に甘えるのが下手クソで。
だけどそれが、たまらなく愛おしい。
「アンタさっき、胡桃に友達がいっぱいいるとか言ったけどさ。その為にあいつがどれだけ頑張ったか知ってる?」
「……」
「勉強だって、あいつが未だに、どれだけ必死にやってるか」
全部のことに一生懸命で、ズルをすることが嫌いだから、真正面からぶつかりすぎて、いつも胃薬ばっかり飲んでてさ。
それなのに、周りには「取っ付きにくい」とか「冷たそう」とか散々言われて……。
「外見は生まれ持ってのものだけど、自分を変えたくて、胡桃がどれだけ頑張ってきたか、アンタは知ってる?」
なんて、知るはずもないか。
知っていたら、あんな卑怯な真似なんて出来るはずがない。
「……私だって、努力してるもん」
吹きさらしのその場所に吹く風は冷たくて。
俺の問いかけに、悔しそうに唇を噛みしめた松元サンは、下を向いて小さくその肩を震わせた。
まぁ、確かにな。
方向性は間違ってるけど、この“ぶりっ子”だって、ある意味頑張りなのか?
うーん。
よく分かんねーけど。
少し考え込んだ俺の目の前では、松元サンが腕をギュッと掴みながら、寒さでカタカタと震えている。
このままここにいたら、風邪ひくかもな。
吐き出す息は白くなって、それなりに着込んでる俺だって少し寒いんだから、松元サンが寒くないはずがない。
また変に誤解をされても困るし、期待をされても応えられない。
一瞬、家まで車で送ろうかとも考えたけど……。
タクシーでも呼ぶか。
一人そんな事を考えていると、松元サンがスッとその顔を上げて、ゆっくりと口を開いた。

