なかなか首を縦に振らない胡桃を無理やり車に押し込んで、この道を通った回数は、片手で数えられるくらい。
方向音痴の癖に、よくわからない道を指差すから、「このまま朝になって、病院に直行とか嫌なんですけど」と言ってからかった俺に、胡桃は不貞腐れて、その小さな唇を尖らせて。
だけど、もういいんだ――……。
「芹沢さんとやり直すなんて、許さないから」
目の前には、少しだけ表情を歪めながら、そんな言葉を口にする松元サンが立っている。
「なぁ、聞いていい?」
俺はもう一度、口を開いた。
「何で俺なの?」
静まりかえった、冷たい空気。
「なんで……“俺”?」
そこに響き渡ったその声に、目の前の松元サンが、小さく息を飲むのが分かった。
「好きだからですよ」
“好き”ね。
「じゃー、もう一つ。俺のどこが好き?」
「……」
「答えらねぇの?」
「だって……ハルキさんは、いつもちゃんと一人の人を見てて、その人にだけ優しくて……っ」
あー、やっぱりね。
松元サン、それってちょっと違うだろ?
「ねぇ、アンタが好きなのって俺?」
「え?」
「それとも――胡桃?」
それは、やっと口にする事が出来た、もうずっと前から思っていた事。

