犬と猫…ときどき、君


「は?」

意味が分からず顔を顰める俺に、ゆっくりと伸ばされる指先。


細い腕が、そのまま首に絡みつき、

「……っ」

気が付いた時には、重なっていた唇。


一気に強くなった甘ったるい香りに、吐き気にも似た何かが胸元にこみ上げる。


脳裏に蘇ったのは、あの日の図書館でのこと。


「……っ!!」

「“解決済み”でも、また問題を起こせばいいんですよ?」


突き飛ばすように離れた俺を見上げる松元サンのツヤツヤとした唇から、そんな意味不明な言葉が紡がれる。


「ハルキさん、大好き!」

まるで誰かに聞かせるようにそう言うと、俺の腕にクルリとその腕を回した。


何……だ?

頭がガンガン痛んで、思考が上手く働かない。

だけど、さっき一瞬だけ抱いた違和感。


――後ろに、誰かいる?


ゴクリと息を飲む音が、耳元で自棄に大きく聞こえて、ゆっくりと振り向いた視線の先にいたその人物に、胸がひどく傷んだ。


「あの、ごめん」

小さくそう口にして、困ったように笑ったその人は――……。


「……胡桃?」

この世で一番大好きで、何よりも大切で、

「何か、ごめん。いつもタイミング悪くて……っ」

もう絶対に傷つけたくないって、そう思っている女の子。


「胡桃……っ」

言葉を飲んで下を向いたまま、パタパタと俺の横を通り過ぎた胡桃。


その瞬間、ふわりと鼻をかすめた胡桃の香りに、思わず手を伸ばしそうになって……抑えるようにギュッと握りしめた。


これでよかったんだ。

俺には“松元サン”がいて、胡桃には今野がいる――胡桃の中のその認識を、今更変える必要なんてどこにもない。


頭に上っていた血液が、一気にスーッと下がっていって、“あぁ、そっか”って、そこでやっと気が付いた。


「アンタもよくこんなこと考えるな」

「……何のことですかぁ?」

ここまできてやっと気付くなんて、俺はつくづくどうしようもない。


見覚えがあると思っていたこの道は、胡桃が通勤に使っている、マンションから病院までの抜け道だ。