「松元サン」
「……え?」
「“別れよう”。――なんて言うと、彼女に別れ切り出してるみたいだな」
「……」
「って、“彼女”なんだっけ? 一応」
笑いながら、単刀直入にそんなひどい言葉を浴びせてみたけど、反応はナシ……か。
きっとこの女に事だから、何か考えがあると思ったんだけど、買いかぶり過ぎか?
だけど、真っ直ぐ逸らされる事のない瞳を一瞬鋭くした彼女は、
「病院、なくなりますよ?」
やっぱり自信あり気に小さく笑って、そんな言葉を口にする。
「あー……そうだな」
「“そうだな”って、いいんですか?」
その口ぶり。
俺が、絶対に病院を手放さないと思っているんだろうな。
「それで、芹沢さんと二人で無職になって、やり直すつもりですか?」
少しだけ風が吹いて、雲が流されて……。
冷たい月の光が、不敵に笑う、彼女の顔を静かに照らす。
「胡桃とのことは、もう解決済み。つーか、アンタには関係ない事だから」
「……っ」
どうしてだろう。
胡桃の上に降る月の光は、あんなに柔らかくて温かいのに。
どうして同じものなのに、こんなに違ってしまうんだろう。
「あのさ――」
コイツの事は、きっとどうしたって好きにはなれない。
でも“コイツも、何かに気付けたら”って……少しだけ考えてしまう時があって。
それを伝えたくて、ゆっくり口を開いた俺。
――だけど。
その目の前で、松元サンの視線が一瞬俺の背後に向けられる。
「ハルキさん」
「え?」
「私の方が、少しだけ運がいいみたいですよー?」
もう一度俺を見上げてニッコリとほほ笑んだ彼女は、そんな言葉を口にした。

