結局その日は一日中忙しくて、予定よりも遅い時間に診療が終わった。
いつもは胡桃が帰るのを待ってから出るんだけど、今日はあのクソボスと戦わないといけないから。
足早に病院を出て、電気の消された駐車場に停めてあった車に乗り込んで……。
今朝打ち込んだナビの住所を頼りに、車をゆっくり発進させる。
「……」
あー、そうか。
車を走らせること数分。
窓の外を流れていく景色を見ていて、何となくだけど自分のいる場所が分かってきた。
この辺りはきっと、俺達が通っていた大学の近くだ。
だけど……さっきから、何かが引っかかる。
ナビが道案内を終了した場所は、やっぱり小さな公園で、ゆっくりと車を停めた俺は、額に手を当てて考え込んだ。
――何だ?
大学の近くで、記憶にある景色なのかもしれない。
でも……。
胸騒ぎなのか、なんなのか。
まるで何かを想い出させようとしているみたいに、ざわつく胸の辺り。
そこをグッと掴んで息を吐き出したその時、“コンコン”と窓を叩く小さな音が、耳に届いた。
「……」
顔を上げると、そこに立っていたのは、にっこりと笑う“松元 詩織”。
もう少しで、思い出せそうだったのに……。
そのタイミングの悪さに小さく舌打ちをして、もう一度息を吐き出した俺は、ゆっくりとドアを開けて外に出る。
「こんばんわ!」
「……どーも」
相変わらずのテンションで俺に話しかけるコイツは、一体何を考えているんだろう。
カチカチと点滅する、今にも消えてしまいそうな街灯に照らされた公園は、しんと静まり返ったまま。
「ハルキさん、全然連絡くれないんだもん! 電話しても出てくれないしー」
語尾を伸ばす、頭の悪そうな喋り方も、
「しー、淋しかったんですよー?」
甘ったるいこの香りも、やっぱりどうしても好きになれない。

