俺と胡桃のことを、本当に可愛がってくれていた先生に、どうしても“別れた”なんて言えなくて……。
それは胡桃も同じ気持ちだったみたいで、どちらともなく、それは先生には伝えないままにしていたはずなのに。
「芹沢君も、時々遊びに来てくれるんだ」
……胡桃が?
「いつもケーキやお花を持って、妻の退屈しのぎに付き合ってくれてね」
「そうだったんですか」
休みが月一しか被らないとはいえ、もうずっと一緒に顔を見せてないんだから、そりゃー気付くよな。
「すみません。なんか言い出せなくて」
「謝ることじゃないだろう。確かに残念だけれど、それは仕方がないことだよ」
そう口にした先生の言葉に、胸がズキンと痛む。
その上こんな事を話たら、もっと悲しい顔をさせてしまうかもしれないけれど。
「横山先生」
「うん?」
もう大切な人に、嘘を吐くのは嫌なんだ。
「少しだけ、離れようと思ってるんです」
「……」
「さっきのお話みたいに、俺もいつか先生みたいに考えられたらいいなとは思うんですけど……。でも、俺にはまだ早すぎる」
俺はまだ幼すぎて、自分のことでいっぱいいっぱいで。
「胡桃の本当の幸せを願えるまで、少し離れようと思います」
想い続けるかどうかは別として、いつかそうなれるように、やっぱり少しずつ前に進まないといけないんだ。
そうしないと、きっと胡桃は今野の話題が出る度に、あんな困ったような笑顔を浮かべないといけないから。
“胡桃のため”じゃなくて、そんなの、俺が望んでないから。
――胡桃が何も気にせずに、今野の隣で笑えるように。
病院もなくなって、みんなと離れ離れになって……。
そんな時、胡桃の支えになるのはきっと今野だ。
だったら、俺にできる事ってそれくらいしかないだろう。
横山先生は、俺の言葉に何度か小さく頷くと、ゆっくりと息を吐き出して、「そうか」と一言だけを口にすると、それっきり胡桃の話をぶり返すことはなかった。

