犬と猫…ときどき、君



「旅行、どこに行かれるんですか?」

「フィンランドとかノルウェーとか、北欧の方に行ってみようと思って」


「オーロラ見えるかしら?」なんて、瞳をキラキラさせる奥さんは、本当に嬉しそう。


「城戸君のおかげよ」

「え?」

「城戸君が作ってくれた、あの時のお金のおかげ」

「……」


あぁ、そっか。


「本当にありがとう」

「いえ。だって、元々はお二人のものですから」


俺が今までやってきた事の中にも、間違えてない事があったじゃないか。

現に奥さんはすごく嬉しそうに笑ってくれているし、それを見る先生だって、こんなに幸せそう。


まだ心に沈んだ重たい物はなくならないけど、ここに来てよかった。


「城戸君、今日夜ゴハンは? 食べていく?」

「マジですか。いいんすか?」

「もちろんよー。もうこの人と二人っきりでご飯なんて飽きちゃって!」

「おい、ひどいな」

「だって、どうせならカッコイイ若い男の子と食べた方がゴハンだって美味しいものー」


こうして温かい物にふれると、やっと気付ける。


「じゃー、お言葉に甘えさせてもらいます」

「よかった! じゃーそれまで、おじいちゃん先生と遊んでいてあげてね」

「了解です」


胡桃が今野と付き合い始めて、自分がそれを望んだはずなのに、好きな女と友達を一度に失ったつもりでいた。

でも、胡桃はともかく、今野は今でも変わらず友達のはず。

あんなにバカみたいに、俺の事を心配する篠崎だっているのに――……。


「アホか、俺は」

「ん?」

「いえ、こっちの話です。……ところで、先生?」

どうしても聞いておきたいことがあった。


「何だい?」

「もしも奥さんと再会出来なかったり、再会した時にはもう誰かと結婚していたとしたら、先生は奥さんを忘れられていましたか?」


俺のその質問に“うーん”とひと唸りした後、横山先生は言ったんだ。


「もしもそうだったとしても、忘れたりはしなかっただろうね。忘れることは出来なかっただろうし、忘れる必要もない」

「え?」

「好きなら、自然に忘れられるまで想い続けたっていいんじゃないのかな?」


でも、そんな報われない想いは辛すぎるだろ。

それを嫌というほど思い知っている俺は、その言葉に思わず顔を顰めて下を向く。


「確かに、城戸君と芹沢君はよく似合っていたからね」

「――……っ」

「なんで知っているのかって顔だなぁ」

驚いて、下げた顔をすぐに上げれば、少しだけ悲しそうに笑う横山先生がそこにいる。