犬と猫…ときどき、君



「少しは落ち着いたか?」

「はい。……すみません」

どれくらい泣いていたのか。

多分ほんの数分やそこらだったんだろうけど……。


「すみません」

「今日の城戸君はよく謝るなぁ」

ポカポカとした太陽の光が届く窓際の席で、柔らかく微笑んだ横山先生に、俺は静かに口を開いた。


「先生。あの病院での診療を、終わらせようと思うんです」

「それは……どういう事だい?」

横山先生は、特に動揺した素振りは見せず、俺の目を真っ直ぐに見据えたまま、落ち着いた口調で返事をする。


「俺の力不足です」

本当にそうなんだ。
俺の力が足りなかった。


「先生の大切な病院を……。本当に申し訳ありません」

「城戸君、頭を上げなさい」

深く頭を下げた俺の頭上から聞こえたその声は、やっぱり柔らかくて優しい声だった。


「理由は聞いてもいいのかな?」

「……」

「それは“聞かれたくない”って顔だな」

年の功なのか、なんなのか……。

横山先生は落ち着き払って、笑いながらそんな言葉を口にする。


「俺のエゴとワガママです」

「“エゴ”?」

「……罪滅ぼしをして、俺が苦しみから抜け出したいから」

胡桃を信じられなくて、バカみたいな賭けをしたあの頃の俺。


「大事なものを取り戻したくても、取り戻せないから……先生の病院を利用してしまいました」

こうして言葉にすると、本当に最悪だな。


「本当にすみません」

いくら頭を下げたって、許されることじゃない。

許されるはずがないのに……。


「詳しい事は分からないし、聞かない事にしよう」

「……え?」

「でも、それで城戸君がそんな風に苦しまずに済むなら、あの病院も本望なんじゃないかな?」


どうしてこの人は――。


「私も家内も、あの病院も、みんな君の事が大好きなんだ。だから、君が手放そうと思うなら、それがあの病院の願いでもあるんだろう」


そんな風に言って、笑ってくれるんだろう。