三十分後、学生時代からの行きつけの居酒屋で、珍しく半個室に通してもらったのは、何となくの気分から。
「何か、キンチョーすんなぁ!!」
真正面に座る篠崎は、さっきの電話の時よりは落ち着いた様子で、少しホッとした。
「何で緊張すんだよ」
「だって、ハルキュンとこんな狭い個室で……ドキドキする」
「シバくぞ」
「うそですごめんなさい」
コイツのこのふざけた性格は、フリなのか?
結構長いこと付き合ってるけど、正直よく分からない。
ひとまず、飲み物とつまみを何品か頼んで、持ってこられたそれに手を伸ばす。
「……」
「……」
さて、自分の話をするべきか、篠崎の話を先に聞くべきか。
篠崎の話の内容にもよるんだけど……。
だけど少しの沈黙のあと、考え込む俺よりも先に、口を開いたのは篠崎だった。
「あのさ、ハルキ」
「おー」
「……」
いつもギャーギャーうるさいヤツが、こういう状態になるっていうのは、きっとよっぽどの事があったってことだろ?
「篠崎」
「お、おう」
「取りあえず、話してみたらいいんじゃねーか?」
「……」
「話しにくいことなら、別に待つけど」
手に持ったグラスを揺らせば、氷がカラカラと音を立てる。
時間はあるし、俺も何から話せばいいのか考えたいし、丁度よかったのかもしれない。
そう思う俺の目の前で、また少しの沈黙を挟んだ篠崎が口にしたのは、思いもよらない人の名前だった。
「さっき、聡さん来たんだ」
「……え?」
出てくるかもしれないと想像していた、いくつかの名前。
だけどそれは、その中には入っていなかった名前で。
「……」
「篠崎?」
また黙り込んだ目の前の篠崎に、何故か胸がざわつく。
そして――……。
「バレたかも」
その言葉に、心臓がドクンと大きく音を立てた。
「さっき、聡さんが急にうちに来て」
少しだけ顔を顰める篠崎に、俺から目を逸らしながら及川さんの帰宅を伝えた、夕方の胡桃の姿を思い出す。
まだ篠崎からは何も聞いていない。
でも、きっと“あの事”だ。
「あの書類、置き場所変えてなかったんだな……」
「……」
「お前がオペしてる間に、聡さんアニテクに頼まれて、倉庫にポンプ取りに行ったって」
やっぱりそうか。
――そうだとしたら……。
「胡桃には?」
「え?」
「及川さん、胡桃には話したって?」
「いや、そこまでは聞いてないけど……」
「そっか」
「……」
「はぁー……くそっ」
天井を見上げて、大きな溜め息を吐き出せば、目の前の篠崎が何故かシュンと肩を落とす。

