電車が動くのを待つ。
タクシーを呼んで帰る。
春希に車で送ってもらう。
本当は、もう一つ選択肢があった。
“今野先生に車で迎えに来てもらう”。
きっと今までだったら、迷わずに四つ目の選択肢を選んでいたはずなのに……。
「どうする?」
首を傾げて私を覗き込む春希に、何も言えなくなって……下を向いて、言葉に詰まって。
一瞬、頭を過ったのは――……
もう少しだけ、春希と一緒にいたい。
そんなバカげたことだった。
それを表情に出さないように、絶対に口になんて出さないように。
言葉を飲み込んで、私は小さく首を振った。
「丁度勉強したい事もあったし、ここで電車が動くまで待ってようかな」
笑いながら春希を見上げて、そう口にする。
「別にこんな日に、そんな事しなくてもいいだろ? 大体、暗くて何も見えねぇし」
「どっかに懐中電灯あったから、それで何とかするよ」
「目ぇ悪くなるぞ」
「もう悪いから大丈夫!」
せっかく冗談めかして笑いながら答えたのに、春希はクスリともせずに、私の目を真っ直ぐ見据えている。
何なら、少し不機嫌そうだし。
「……ありがと。でも、本当に平気だから」
だって、無理だよ。
停電になる前、たったあれだけの時間の沈黙で、窒息しそうになっていたのに。
家まで、たかだか十数分。
もしかしたら、この雨でもう少しかかるかもしれないけれど……。
そんな短い時間でさえ、今の春希と二人きりになるのは少し辛い。
シンと静まり返った医局には、雨の音が相変わらず響いていて、その中に混ざって聞こえた、春希の溜め息。
そして、何故かそのまま医局の中の物置まで歩いて行くと、中をガサガサと漁り始めた。
「なに……してんの?」
「探し物」
探し物?――ってゆーか、何で怒ってるのよ。
なぜか若干機嫌が悪くなった春希の後ろで、状況がつかめずに顔を顰める。
そんな私の前で、物置の中の春希は何かをゴソゴソカチカチといじっていて、すぐに溜め息交じりに物置から出てきた。
「懐中電灯、電池切れ。それでも“勉強”する?」
「……する」
だって「する」って言った手前、ここで引いたら、あからさまに春希と帰りたくないって言ってるようなものだし。
「あっそ」
春希は呆れたようにまた大きく息を吐き出して、私の横をすりに抜けると、今度は棚の中を物色して何かを手に戻って来た。

