犬と猫…ときどき、君


「ねー、どうしよう?」

「どうするも何も、どうしようもないと思うけど」

「そうだけど……」

こんな時も、春希は変わらず飄々としている。


「取り合えず、もう病院は閉めて医局戻ろ。ここにいても仕方ねぇし」

人の返事も待たずに、病院のカギを閉めて回り出した春希の後ろを、ビクビクしながらついて回っていたら、「カルガモの子供か?」って、笑いながらバカにされた。


だけど、しょうがないと思う。

別に幽霊とかを信じてるワケじゃないけど、絶対にいないとも限らないし。

そもそも、ここは病院だし……この非常灯しか点いていない状態って、すごく気持ちが悪い。


「いいから! 早く閉めちゃってよ!」

「二手に分かれれば、早いと思うんですけどー」

「……いいの!! だって私鳥目だし、見えないのっ!!」

「初めて聞いたけど」

「うるさいなー!」

それから入院しているイヌとネコの点滴のバッテリー量を確認して、ギャーギャー言い合いをしながら、医局に戻ったんだけど。

当然、医局も真っ暗。


「芹沢、電車で帰る?」

「……え?」

未だに停電のパニックから立ち直れないでいる私にそう話しかけた春希は、いつの間にかロッカーから携帯を取り出して、何やら操作している。


「うん。そのつもりだけど」

だって、こんな大雨の中を歩いて帰りたくないし、挙句の果てには停電だし。


「それは残念」

「へ?」

「電車、止まってる」

「は?」

「停電ついでに、緊急電源のトラブルだと」

目の前にホイッと差し出されたのは、交通情報のページが表示された春希の携帯だった。


「ウソでしょー……」

情けない声を上げながら、自分のデスクにヘナヘナと座り込む。


何かもう、本当についてない。

一生懸命勇気を出して、覚悟を決めて今野先生の事を話そうとしたのに、停電でタイミングを逃したし。


だけど、項垂れる私を見て、春希は何故かクスッと笑う。


「……なに?」

「いや、別に」

“別に”なら、笑わないで欲しいんですけど。


「なに怒ってんだよ」

「別に」

軽い八つ当たりを込めて、春希が口にした言葉をマネて繰り返して……タクシーを呼ぼうかと悩み始めた時だった。


「送ってくよ」

「え?」

暗闇に響いた春希の声に、心臓がドキンと音を立てた。


白衣を脱いで、それを椅子の背もたれに放り投げて、「家まで送ってく」と、もう一度その言葉を口にする。


「でも、遠回りになるし」

「すぐだろ。そんなに変わんねーよ」

ロッカーから着替えを取り出す春希の姿をぼんやりと眺める私の頭の中は、混乱したまま。


――きっと停電があったせいだ。

そんな無意味な言い訳の言葉を、心の中で繰り返す。