犬と猫…ときどき、君



丘を登りきって頂上にたどり着いた頃、まるで何かを抑え込むように、気付いたら二人とも無言になっていた。


「あそこ……」

指差した先には、地平線近くに輝く小さな星座。


――それは、胡桃と見に行こうと約束していたサザンクロス。


となりに立つ胡桃の呼吸が、わずかに震えていることに気が付いていたのに……。

泣いている胡桃を見てしまったら、きっとまた俺は同じことを繰り返して、胡桃を苦しめるから。


何も出来ない俺は、拳をぎゅっと握りしめて、静かに息を吐き出す。


そんな俺の耳に届いた、胡桃の声。


「……春希」

「――え?」

その小さな声の、威力は絶大で。


「春希」

「――……っ」


――どうして。

こんなにも必死に忘れようとしてるのに、どうして。


俺とのことを、全部忘れるって言ったのに。

何でそんな声で俺の名前を呼ぶんだよ。


隣りに立つ胡桃を見てしまったら、やっぱりもうダメだった。

地平線に輝く、その星を見ているんだとばかり思っていた。

だけど、目の前の胡桃は、その大きな瞳からポロポロと涙をこぼしながら、空を見上げていて。


「本気で忘れようと思ってたのに」

伸ばしてしまった指先で、その震える体を引き寄せて、腕の中に閉じ込めた。