タクシーが停まった瞬間、ゆっくりと離れた胡桃の手。
「私が払う」
「マジでいいから」
「ヤダ。払う」
「分かったよ。じゃーワリカンだ、ワリカン!」
相変わらず甘えることが苦手な胡桃は、それまでの空気をブチ壊す勢いで財布を取り出し「タクシー代払う!」と言って聞かない。
「お前ホントさぁ……」
呆れたように笑う俺に、唇を尖らせたあと、その瞳を逸らしてゆっくりと周りを見回した。
「……すごい、緑の匂い」
「そうだな」
立ち止まったままの胡桃の横をすり抜け、少し坂になった草地を登る。
晴れてるから、きっと見えるはず。
少しうしろを歩く胡桃を振り返れば、俺の視線になんて気付かないくらい必死に、星空を見上げていて笑ってしまった。
「口開いてるから」
「……うるさいなぁ」
ここを登りきったら、昔に戻れるんじゃないかなんて……。
頭に浮かぶのは、都合のいい絵空事。

