犬と猫…ときどき、君


色々考え込んでいたせいで、せっかくの薬学セミナーの内容は、ほとんど頭に入らなかった。


頬杖をついて、ボーっとしたままそれを聞いていた――というより、眺めていたら、いつの間にか最後の質疑応答になっていて……。

病院の経費で払った旅費が、もったいなかったなぁなんて、くだらない事まで思ってしまった。


ホント、何しに来たんだろう。


ついには質疑応答まで終わって、明るくなった会議室。

ザワザワと立ち上がる人達に合わせるように、机の物をポイポイとカバンにしまい込む俺の隣には、携帯をチェックする胡桃の姿。


「城戸ー」

「んー?」

急にその視線を俺に向けるから、一瞬焦った。

だけど、胡桃はそんな事には気付かないし、気付くはずもない。


「祖父江ちゃんのおススメのお店、結構近いかも」

「おー。ナイス、祖父江ちゃん。って、誰だかよく分かんねぇけど」

「えぇー……」


膨れっ面で、上目遣いで俺を見上げるそれが、どれだけ人の心を揺り動かしているかなんて知らずに。


「取りあえず場所教えて。てか、メール転送して」

「へ? なんで? 私が道案内すればいいじゃん」

「お前に任せてたら、明日の朝になっても着かねぇだろ」

「はぁ!?」

「いいから送れ」

「……ムカつく」

「くくくっ」


こんな風に少しずつ、“いい関係”を築きながら――……


俺達は、過去の記憶を消していくんだ。