「篠崎!! 起きろ!!」
「……痛ってぇ!!」
いつの間にか、また布団にもぐり込んでいたソイツの頭を、さっきよりも強く叩けば、やっと頭が働き出したらしい篠崎がモゾモゾ動き出す。
「何だよもぉー」
「お前、帰れ」
「はぁ!?」
あからさまに“何言ってんだコイツ”って顔をした篠崎だったけど……。
「胡桃、戻ってきた」
ポツリとそう口にした途端、急に大人しくなって頭をかいて、
「ハルキの気持ちはも分かるけど、芹沢だって相当しんどいぞ?」
「……あぁ」
「ちゃんと話せる事は話せよ?」
「わかってる。……悪かったな」
全部を理解したらしい篠崎は、俺の返事に大きな溜め息をこぼすと、さっさと着替えて「頑張れよー」と笑って、部屋を出て行った。
篠崎が出て行った扉のカギはそのままに、自分のベッドに戻った俺は、そこに座って考え込む。
ずっと頭にあるのは、昨日の事。
あれは、越えてはいけない一線。
今までだって、何度もそうしたいって、胡桃に触れるたびに思ってきた。
――それなのに。
「今野か……」
今度こそ、終わりだと思ったんだ。
これまでも、胡桃の彼氏の話は聞いてきたし、実際にそいつを見た事だってあった。
でもどこかしっくりこないその相手に、俺はバカみたいに慢心していた。
胡桃を幸せにして欲しいと思うのに……。
「どんだけ矛盾してんだよ」
胡桃を忘れないといけない。
でも、忘れて欲しくない。
胡桃を心から理解してくれるヤツと、幸せになって欲しい。
でも、それが見つかるのが怖い。
俺の心の中は、自分でも呆れるほどの、矛盾でいっぱいなんだ。
胡桃からの電話を切ってから、五分ちょっと。
もしかしたらロビーで篠崎に会って、何か話しているのかもしれない。
昨日よりは格段にクリアになった頭で、胡桃との関係を元に戻す方法を考えてみるけど、そんなの思いつくはずもなくて。
テーブルの上の煙草に手をのばした瞬間、小さくドアをノックする音が部屋に響いた。
「……」
取り出しかけたそれを箱に戻し、俺は静かに立ち上がる。
「おはよ」
「……おはよう」
ゆっくりと開いたドアの先には、少し俯いて、気まずさを含む瞳で俺を見上げる胡桃の姿。
その一言だけを口にして、部屋に戻った俺の後ろをついてきた胡桃だったけど、
「城戸」
さっきよりもしっかりとした声で俺の名前を呼ぶから、俺も決心をして振り返った。
真っ直ぐ俺を見据える胡桃は、やっぱり凛としていて、物凄く綺麗で、どこまでも透き通っている。

