犬と猫…ときどき、君



次の日の朝、ぐーぐーとイビキを立てる篠崎を横目に見ながら、俺はベッドに寝転がったままほとんど眠れなくて、窓の外が少しずつ明るくなる様子をボーっと眺めていた。


そもそも、寝れるワケねぇだろ。


――昨日の夜……。


「さすがに芹沢のベッドで寝るのは気がひける!! 俺、よからぬ想像しちゃって、夢の中で浮気しそうだもん」


そんなバカみたいな発言をしたバカ篠崎のせいで、俺が胡桃のベッドに寝ることになった。


胡桃の香りがする度に、唇がはなれた瞬間の、胡桃の顔が頭に浮かぶから……。

一晩中、俺の心は自責の念でいっぱいだった。


「ふざけんなよ、篠崎」

悪態をついたところで、相変わらずイビキをかき続ける篠崎に届くワケもないし、それが八つ当たりだって事もよく解っている。


「はぁー……」

もう何度目かも分らない溜め息を吐いて、もう一度寝返りを打った俺の耳に、携帯の着信音が聞こえた。


それは俺の携帯の物ではなくて、昨日の夜“マコちんからメールがこない”なんてくだらない事で沈んでいた篠崎の物。


サイドテーブルに置いてあるそれは、一度切れて、また鳴り出した。


「おい、篠崎。携帯鳴ってる」

布団を頭まですっぽりとかぶった篠崎は、俺よりももっと寝起きが悪い。


「出てー……」

「はぁ!?」

「俺、むりぃー……」

「ふざけんなよ!!」

布団を捲って頭を叩いても、寝ぼけたまま一向に起きる気配はない。


まぁ、どうせ昨日の篠崎のストーカーばりのメールに対する椎名の苦情だろ。


だけど、溜め息交じりに、鳴り続ける携帯を手に取った俺の思考回路が停止した。


そこに表示されていたのは【着信中 芹沢】。

胡桃の名前だった……。


ゆっくりと息を吐き出した俺は、通話ボタンを押して、それを耳元に持っていく。


「もしもし」

「……」

「悪い。篠崎まだ寝てんだわ」


電話の向こうで、困惑して息を飲む胡桃のその表情が、手に取るように分かって……。


「荷物、何も持たないで出ちゃったから……」

感情を押し殺したようなその声に、また胸が痛んだ。


「今どこにいるんだ?」

「下のロビーに」

「……そっか。必要な物、持ってくよ」

「ううん。今からそっちに行くから大丈夫」

携帯越しに聞こえた、意を決したような言葉に、胸がドクンと大きく跳ねる。


「分かった」

俺の返事を聞いて、カギを開けておいてとだけ口にして、電話を切った胡桃。


「はぁー……」

大きな溜め息をまた一つ吐いて、頭をガシガシ掻いた俺は、とりあえず篠崎を叩き起こす事にした。