動けないでいる私に「携帯、繋がるといいねー」なんて軽口を叩いて笑った城戸は、その手をスッと離して、カバンから取り出した煙草とライターを手に、一人ベランダに出て行った。
「――…っ」
ドアがパタンと閉まった瞬間、また心臓がその鼓動を速め出す。
俯いていた視線を上げれば、ベランダの手摺に寄りかかり、外を眺めながら煙草を吸う城戸の姿が目に映る。
もう外は暗くなっていて、紺色の空にゆっくりと溶けていく白い煙に、私はつい瞳を奪われてしまった。
城戸に貰った、あの綺麗なストラップ。
城戸は当然、私があれを付けていない事にも気づいている。
傷付けてる……かな?
城戸の事。
だけど、ここで今、それを考えても仕方がない。
だって、どうすればいいのか、自分でも分からないんだ。
それに、城戸に取り繕うような言い訳なんて出来ないし、したくもない。
もう一度大きく息を吐き出した私は、ベランダの城戸から手元の携帯に視線を戻し、サキの番号を呼び出して通話ボタンを押す。
「――あ」
呼び出し音が耳に届いて、繋がるのは分かっていたけど、ちょっとホッとしたりして。
――数回のコールの後。
「もしもしー!! 胡桃ー!?」
そんな元気なサキの声が、私の耳に届いた。
「そうだよー。久しぶり。元気?」
「うん! 元気元気ー! てか、急にどうしたの? 珍しいね!」
「あー、サキが沖縄のセミナー来るって聞いて」
「え!? もしかして胡桃も行くの?」
「行くっていうか、もう沖縄来てる」
「マジで!?」
相変わらず元気なサキの声につられて、さっきまでの少し沈んだ心が、軽くなる。

