絨毯が敷かれた廊下を歩き、部屋のドアの前で立ち止まった城戸が、手に持っていたカードキーでロックを解除する。
「……入れば?」
「言われなくても、入るもん」
少し躊躇して、廊下から部屋の中を覗き込む私に、さっさと中に入ってソファーの上に荷物を置いた城戸が声をかける。
「ねー、城戸?」
「あー?」
「篠崎君来るのって、明日だっけ?」
「おー……って、なにお前。早速部屋チェンジする気だろ」
「違う、けど」
いや、そうなんだけどさ。
「“けど”?」
「だって、松本さん来るんだよね?」
私だったら、やっぱり自分の彼氏が他の女の子と同じ部屋――しかも、ダブルに泊まるのは、絶対に嫌だと思うし。
“城戸は彼女の部屋に行くべきじゃない?”――そう口にしようとした瞬間。
「あいつ、じーさんと同じ部屋だし」
私の思考を読んだ城戸のその言葉に、何も言えなくなってしまった。
「大丈夫だから、余計な心配すんな」
「……うん」
フッと目を細めて笑う城戸の表情に、何故か胸が、チクンと痛む。
“余計な心配”か。
当然だよね。
だって私、実際に部外者だし。
「あ。そういやさー、野田とかも来るって知ってた?」
「“野田”って、サキ?」
「おー」
少しだけ重苦しくなってしまった部屋の空気を変えたのは、城戸のそんな一言だった。
サキかぁー。懐かしいな。
大学の同期で、ソフトボール愛好会も一緒だったサキ。
地元に戻って就職したサキとはなかなか会う機会がなかった。
「会えるかな?」
「会えるだろ。連絡してみたら?」
「連絡先変わってたら、軽くへこむなぁー」
私のその一言に、「ありえるな」なんて言いながら、意地の悪い笑顔を浮かべた城戸だったけど……。
私がカバンから携帯を取り出した瞬間、その視線を私の手元にゆっくりと落とした。
どうしよう。
ギュッと握った手には、ストラップの付けられていない、使い慣れた携帯電話。
少し気まずくて俯いた私の頭の上に、ポンッと乗せられた、温かい手の平。
その温もりに、心臓がドクンと大きく跳ねる。
それと同時に落とされたのは、城戸のいつも通りの声だった。
「タバコ吸ってくるわー」
城戸は……私の様子の変化になんて、気付かない。

