犬と猫…ときどき、君



数時間後、沖縄の空港に到着して、売店で城戸にメンソーレTシャツを無理やり買わされそうになって。

空港の外に出て、その暑さに驚いて。

二人でタクシーに乗り込んで、ホテルに到着した。


確かに、教授の盲腸事件で出鼻は挫かれたけど、そこまではまだ良かった。

だって、まだ何とか対処できる範囲だったから。


「――え? どういう事ですか?」

「本当に申し訳ありません!!」


だけど、これはいただけない。


「えっと……。こちらも困るので、今からシングルを一部屋用意してもらう事って出来ませんか?」

受付をしようとしたホテルのフロントで知らされた、知らないところで起きていた大問題。


「実は明日と明後日、大きな国際会議がありまして、当ホテルを含め、この辺りのホテルはほぼ満室で……」

困惑顔で溜め息を吐く城戸の正面には、デスクにおでこをぶつけそうな勢いで頭を下げるスタッフが三人。

しかも、そのうちの一人は、たぶん結構偉い人。


「こちらの手違いですので、もちろん宿泊料等は頂きません」

それは、大変助かるけれど……。


「えっと、ダブルの部屋なんですよね?」

「……はい」

そこ、大問題でしょう。


話しをまとめると、こういう事だ。

聡君が予約してくれた部屋は、私のシングルと、城戸と聡君用のツインが一部屋ずつだった。

その予約を受け付けたのが、目の前で涙ぐむ新人のスタッフだったらしく……。

手違いで、実際に取れていた部屋は、ダブルが一つ。


「本当に、申し訳ありませんっ!!」


――その大きな涙声に、城戸が……

「あー、もういいですから。そんなに謝らなくても」

そんな言葉を口にしたもんだから、思わず目を見開いて彼を二度見してしまった。


「……何だよ」

“何だよ”じゃなくて!!


「ダ、ダブルだよ?」

いや、本当はそこでもないんだけど。

まず部屋が一緒の時点でどうかと思うけど、そこは百歩譲って。


「だって、しょうがねぇじゃん」

「……」

何でそんなに飄々としていられるのかが、心底分からない。


眉間に皺を寄せた私を無視して、カードキーを受け取った城戸は、ホテルスタッフの案内を断り、足元に置いてあった自分と私のカバンをヒョイっと持ち上げる。


「安心しろ。襲わねぇから」

「はぁっ!?」

「ほら、さっさと行くぞ」

そんな言葉を私に落とし、一人でエレベーターに向かって、スタスタと歩き出した。