「へっ!? 何でだよ!?」
「だって……」
――だって、城戸が、あまりにも困ったような顔をしたから。
「何かよく分かんねぇけど、篠崎も来るとか言い出したし、今更行かねぇとか無理だろ」
「……うん」
そう。それが、この前マコが言っていた“助け舟”。
例の如く、恐妻ならぬ恐彼女っぷりを発揮して、無理やり篠崎君を派遣したんだと思う。
それを考えると、やっぱり行かないワケにはいかない。
「ほれ、行くぞ。もう最終アナウンス流れてるし」
「……うん」
今までだったら、城戸が私のカバンを持ってくれて、私が城戸の小さなカバンを持って。
だけど目の前の城戸は、自分のカバンをヒョイっと持ち上げると、少し困ったように笑う。
「行こ」
そう言うと、私に背を向けて歩き出したんだ。
その城戸の行動に、また胸が痛んだのは、別にカバンを持ってもらいたかったんじゃなく。
きっとそれが、城戸の言う“距離を置く”っていうやつだと分かってしまったから。
――必要以上に、優しくしない。
それが城戸の距離の置き方。
バカみたい。
他人と同じ扱いを受ける事で、こんなに淋しさを感じてしまう私は、やっぱり自惚れていたんだ。
ホントに、虫が良すぎるよね。
自分だって、城戸と少し距離を取っているくせに、いざ城戸からそうされると、こんな風に意味も分からず胸を痛めている。
私は一体、どうしたいんだろう?
友達でいるなら、これで十分のはず。
それなのに……。
「芹沢? どした?」
「ううん。何でもない」
――“胡桃”
二十九歳になった、あの夜。
私を抱きしめながら、名前を呼んだ城戸の声が、どうしても……耳から離れない。

