犬と猫…ときどき、君



外がすっかり暗くなった頃。


モヤモヤする頭を抱えたままの俺は、デンちゃんの傷の状態をチェックしたあと、心配そうに俺を見上げるそいつの頭をそっと撫でた。


「大丈夫だよ。お前まで、そんな顔すんなよ」

眉を下げて、しょんぼりとするその顔に、思わず笑ってしまう。


「ダメだなー、俺」

立ち上がりながらそう零して、もう一度その頭を撫でると、デンちゃんは小さく尻尾を振った。


「あとは……」

診察室に戻った俺は、今日来院した気になる患畜のカルテをチェックして、それを大量のカルテがしまわれている棚に戻すと、やっと一息吐いた。


「はぁー……」

俺、どうしたいんだろ。

最近、気付くと溜め息ばかり吐いていて、頭痛も増えた気がする。


考えているそばから、またこめかみの辺りがズキリと痛んで、頭を抱えた俺だったけど……。

ドアがバタンと閉まる音に、ゆっくり顔を上げた。


カルテが置いてある、受付の裏の小部屋の窓から見えたのは、一人で帰って行く、椎名の姿。


じゃー胡桃は、やっぱり今野と?

「……つっ」

そう思ったっ瞬間、また頭に鋭い痛みが走って、思わず顔を顰めた。


「痛ってぇー……」

いつになったら、この痛みはなくなる?

頭もそうだけど、バカみたいに痛んでしまう、この胸の痛みも。


一体いつになったら、なくなるんだろう。


暗い廊下を、気付けばまた溜め息を零しながら歩いていた。

結局、胡桃には謝れないまま、当然だけど、誕生日を祝うなんてもっての外で。

だけど、ゆっくりと息を吐き出し、医局のドアを開けた瞬間、


「……お疲れ」

一瞬、言葉に詰まったのは、帰ったと思った胡桃の姿がそこにあったから。


驚いて心臓をバクバクさせながらも、胡桃の顔を真っ直ぐ見つめれば、まだ赤く腫れ上がったままの頬が瞳に映る。


――ごめんな。

あの女に対してもそうだけど、それよりも、自分に対する怒りで、喉の奥がグッと痛む。


俺が悪い。
全部、俺のせい。


それなのに胡桃は、俺からその顔を背けて、

「城戸のオペって凄いよね! 傷口とか、すごい綺麗だし! それに……」

そうやって震える声で、話を逸らすんだ。