また俺が、胡桃の人生を滅茶苦茶にするワケにはいかなくて、自分がやっている事が、本当に正しい事なのか、正直なところ最近分からなくなっていた。
「ふー……」
天を仰いだまま長く息を吐き出せば、心の中の重たい何かが、少しだけ冷たくなり始めた空気に溶けていく。
ゆっくり立ち上がり、部屋に戻れば、時計はもう三時近くを指していて、日付の表示は“9月10日”。
その表示に、思わず携帯に手を伸ばし……
【二十九歳おめでと。めでたい年齢かはわかんねぇけど】
作ったのは、そんなメール。
「……」
だけどそれが、胡桃に届く事はない。
消去ボタンを押した俺は、溜め息を吐いて静かに携帯を閉じた。
たった一言のメール。しかも、冗談混じりのそのメール。
それさえも送れない俺は、もしかしたら、もう胡桃から一番遠い存在なのかもしれない。
――胡桃と出逢って、十一年。
「十一年の片想いって、どんだけだよ」
小さく漏れ出てしまった笑いを、噛み殺す。
それでもさ。
やっぱり俺は、胡桃が好きなんだ。

