犬と猫…ときどき、君



「……奥さん、星に詳しいんですか?」

何となく、気になってしまった。


だってこの少し大きな星は、きっとベガで、もう一つがアルタイル。


“あの辺に、ビガビガしてんのあるだろ?”

“……何となく、うん”


だけど目の前のその人は、俺の言葉を聞いて、おどけたように肩を竦《すく》める。


「いえ。星の事なんて、全く。だけど、夏になると、いつも一緒に星を見に行くんですよ」

その言葉に、さっきよりも強く軋む胸。


“その右斜め下らへんに、もう一個ビガビガしてんのわかる?”

“ねー、その‘ビガビガ’って表現、変だと思う”


何なんだよ。

きっと、目の前のその人が、あまりにも幸せそうに笑うから……。


だからこんなに、想い出す。


息苦しさを覚えた俺は、何かを振り払うように、短く息を吐き出した。


この人はきっと、隣で星を見上げる奥さんを、こんな風に愛おしそうに目を細めながら、見つめていて……。


それって、俺が胡桃を想うのと同じ気持ちでさ。

だけど、俺の気持ちは胡桃には届かないし、届いちゃいけない想いなんだ……。


――それなのに、俺は。


「お客様?」

少し戸惑ったように声をかけたその人に、小さく笑って言ったんだ。


「これ、包んでもらっていいですか?」

「……かしこまりました」


目の前で、柔かく笑うこの男の人と奥さん。

俺と胡桃。


「彼女へのプレゼントですか?」

「……誕生日なんですよ」


同じように、空を見上げていたはずなのに――


「そうでしたか」


繋がった未来と、途切れてしまった未来。


やっぱり湧き上がったのは、どうしようもない小さな嫉妬心と、自責の念。


「えぇ。……明日、ちゃんと渡せたらいいんですけど」

これをいつか“友達”として、笑って胡桃に渡せる日がくるんだろうか?


その時胡桃の隣には、一体誰がいるんだろう。