犬と猫…ときどき、君


曜日も分からなくなる程の、働きっぷりって。


「ホント麻痺してんなぁ……」

小さく頭を振りながらポツリと呟いた後、何気なく周りを見渡した俺の目に、キラキラと光る物が映った。


本当に“何となく”気になったんだ。


普段だったら、絶対に入ろうとも思わない、ピカピカに磨かれた真っ白な床に、黒い壁のその店。


ガラス張りの店中を覗くと、客は水商売のねぇちゃんと、同伴のおっさんの一組だけ。

入ったら絶対に店員の餌食になるのは分かり切ってるんだけどな。


それでも、つい足を踏み入れてしまったのは……。

何気なく近寄った“ある物”に、あの丘の上で、空を見上げる胡桃の姿を、一瞬思い浮かべてしまったから。


だけどそれは今の胡桃じゃなくて、空を見上げた後、嬉しそうに俺に笑いかけていた、あの頃の胡桃。


「――……っ」

たったそれだけで、こんなに心臓が痛くなる俺って、何だろ。


ゆっくり店に足を踏み入れた俺の目に映ったのは、キラキラと白っぽい光を反射する、ストラップだった。

細い鎖の途中に、薄い小さな星が、キラキラ光る。


「……」

たとえ胡桃が俺の誕生日を祝ってくれたからって、俺が同じように、胡桃の誕生日を祝えないのは分かってる。

これを買ったところで、今のこの状態では渡せない。


そう思って、引き返そうとした俺に、静かに近寄ってきたのは、一人の男の店員だった。


「何かお探しですか?」

「……いえ」


小さく笑った俺に、同じように控えめな笑顔を向けたその人は、さっきまで俺が見ていたそのキラキラと光るストラップを、ガラスのショーケースから取り出す。


そして、それを黒い布地の台の上に乗せ、静かに近くのテーブルに置いて、口を開いたんだ。


「天の川だそうです」

「え?」


――天の川。

やっぱり、どうかしてる。


そのたった一言で、あの空気の匂いまで想い出す俺は、どこか可笑しいのかもしれない。


胸がわずかに痛んで、それと同時に起った頭痛に顔を顰める。


「実はこれ、私の妻がデザインした物なんですよ」

そんな俺の前で、そう言ってフッと笑ったその人は、愛おしそうにその目を細めた。