犬と猫…ときどき、君


「けどさ、俺も最近、正直よく分かんなくなってんだわ」

「何が?」

胡桃の為とか言っておきながら、結局は、胡桃を自分の手の届くとこに置いておきたいだけなのかなぁ……って、思ったりして」


こんな事を言われたって、篠崎は困るだけなんだろうけど。

今日の俺、どんだけいっぱい、いっぱいなんだよ。


「悪い」

そう口にして、また似合わないらしい煙草に手を伸ばしかけて、少し考え込んだ後、その箱をカバンに放り込んだ。


いつからだろう。

あんなに嫌いだったはずの煙草を、こんな風に吸い始めたのは。


「吸わねぇの?」

「おー。だって、似合わねぇって言われたしー」

「ガキかっ!!」

「そうだな……」

「ハルキ?」

「ホント、ガキだなぁー俺」


吸い始めたのは、きっと胡桃を真っ直ぐ見られなくなってから。

自分のエゴで胡桃を傷付けておいて、それでも胡桃を目で追ってしまう自分が、許せなかったからだ。


だから俺は、わざと胡桃が見えないように、傍に近寄る事がないように。


どんどん、どんどん積み重ねられていく嘘。

それが煙草の煙と一緒に体に溜まっていって、自分の体がどんどん蝕まれていく気がする。


蝕まれれば蝕まれるほど、胡桃には手が届かなくなって……。


――それなのに、結局は同じように目で追ってしまう。

この手で、胡桃に触れたいって、そんな風に思ってしまうんだ。


それから、無理やり話題を変えた俺だったけど……。

それに答えながらも、時々何か言いた気に表情を曇らせる篠崎に、とてつもなく申し訳ない気持ちになった。


もー、ホントにアホだ。

篠崎と店の前で別れた俺は、車をコインパーキングに入れっぱなしにして、歩きながら家に帰る。


「そっか。今日、金曜か」

妙に多い人通りをぼんやり眺めていたら、今日が週末だという事を思い出した。

この仕事をしていると、曜日感覚も、祝日がいつだったのかさえも分らなくなってしまう。


別に仕事は嫌いじゃないし、自分が望んでやっている事。

だけどさ、やっぱり時々、この緊張感から逃げ出したくなったりもするんだ。