犬と猫…ときどき、君



あの女が悪い事なんて、分かり切ってる。

それなのに胡桃は、怒り狂う椎名の隣で、俺に文句一つ言う事もしなかった。

きっとそれは、胡桃の優しさで……。


「感情的になって、松元さんの事叩いちゃった。ごめんね」


だけどそれが、一番キツイ。


「嫌な思いさせて、悪かった」

そう口にした俺に、胡桃の瞳が向けられる事はなくて。


「ううん。……平気だから。じゃー、私も着替えて帰るね」

「……」

「お疲れ様」

俺の存在を心の中から閉め出そうとしているかのようなその態度が、俺にとっては一番辛いんだ。


「もっと他にかける言葉、あんだろーが」

バタンという音と共に、見えなくなった、胡桃の背中。

ゴチャゴチャになった頭を掻き回しながら、小さく呟いた言葉が、溜め息と共に零れ落ちる。


「はぁー……」


――もう、全然伝わらないんだな。

いつも一緒にいたあの頃みたいに、言葉に出さなくても伝わればいいのに。


「……って、それもダメか」

俺の口から漏れるのは、自嘲的な笑いと、そんな言葉。