犬と猫…ときどき、君



「胡桃に何した?」

ドアを開け、そこに放り込むようにそいつの腕を離した俺は、電気も点けずにそう口にした。


「したのは向こうだって言ってんでしょ!? 何でしーがあんな女に殴られなきゃいけないの!?」

くだらない事を喚き散らす松元サンを睨み付ければ、グッと押し黙る。


「“何した?”って聞いてんだけど。……答えろよ」

「……知らない」

「……」

「だって、悪いのはハルキさんでしょ!? 私、昨日せっかく待ってたのに!!」


昨日、せっかく胡桃に誕生日を祝ってもらったのに、また泣かせて……。

頭を抱えながら、溜め息を零す俺が、マンションの駐車場に着いた時。

そこに、コイツが立っていた。

しかも、一人で激怒しながら。


心底うんざりして、大した言葉も交わさずに部屋に入ってしまった時には、さすがに少しだけ心が痛んだ。

だけど、こういう言い方をされると、その気持ちさえも見事に吹っ飛ぶ。


「俺、あんたと約束したか?」

俺のその低い声に、言葉を詰まらせた松元サン。


「一個だけ、いい事教えとくよ」

「いい事?」

「おー」

「……」

「誕生日は、マイナーコードのバースデーソング歌うヤツとしか、過ごしたくない」

「は?」

「だからさ、アンタじゃないんだよ」


目の前で不機嫌そうに眉間に皺を寄せるそいつの前で、俺は小さく笑った。


それがない誕生日なんて、どうでもいい。そんなの、何でもない日と同じなんだ。


きっと、これからもずっと。

その日は、他の364日と一緒。