「おはよ。早いね」
「んー……。ちょー眠い」
次の日の朝、一旦家に帰ろうとリビングで身支度を整えていたら、栗色のショートカットの髪の毛を逆立てたマコが現れた。
「すっごい寝癖」
「誰のせい?」
「私ではないと思うけど」
「はぁ!? 胡桃が心配かけるから、頭掻き毟った結果でしょう!?」
「えぇー? 違うよ。マコの寝相が酷すぎたんだよ」
それに対して“心外だ!!”と抗議を続けるマコを尻目に、携帯を開いて時間を確認すれば、まだ七時前。
その時。不意に手元に感じた、マコの視線。
「ん?」
「城戸に貰ったストラップ、付けないんだ。勿体なーい」
「……ね」
ポツリとそんな言葉を落とした私の手には、アクセサリーが何も付いていない携帯電話が握られている。
ステンドグラスみたいな模様をしていて、キラキラと光を放つこの携帯に、城戸から貰ったあのストラップは、凄く似合うだろうと思った。
だけどやっぱり、あれを今の私が付けるワケにはいかない気がする。
城戸が考えている事も分からないし、この前の松元さんとの事もあるし……。
それに、昨日の今野先生との事も。
そして何より、一番の理由は、自分の気持ち。
城戸が何を想って、あれをくれたのかは分からない。
マコが言うみたいな、深い意味なんてないんだろうけど。
それでもやっぱり……。
「何か、付けられないや」
軽い気持ちであれを付けようとは、どうしても思えなかった。
下を向いてポツリと呟いた私に「そっか」と小さく返事をしたマコ。
「ごめん! じゃー、行くね」
心配をかけないように笑顔を作って鞄を掴んだ私を、玄関まで送ってくれたマコだったけど、ドアを開けた私に、
「沖縄、助け舟出しといたから」
そう言って、何かを企むような極上の笑顔を向けたんだ。

