犬と猫…ときどき、君



その音に、城戸がゆっくりと顔を上げる。

「……」

もうみんな帰ったと思っていたのに。


もしも後ろに立っているのが、マコ以外の誰かだったらどうしよう……。

色んな事が一瞬で頭に浮かんで、心臓が、さっきまでとは違う嫌な音を立ててざわめき出す。


だけど、そこに立っていたのはマコでもサチちゃんでも、コトノちゃんでもミカちゃんでもなくて。


「――今野」

「……っ」

城戸の胸から私の耳に伝わったその名前に、肩がビクッと震えた。


「悪い。入口のカギ開いてたから……」


どうして、今野先生が。

ドクドクと激しく音を立てる心臓の音が、自分の耳元で聞こえる。


城戸から離れないとと思うのに、そうしたところで、今野先生にどんな顔を向けたらいいのかが分からなくて。

私は思わず、城戸のシャツの胸元をギュッと掴んだ。


「何か用か?」

私の気持ちに気付いてか、さっきの言葉通り、まるで私を守るように腕に力を込めた城戸が、静かに今野先生に話しかける。


「いや、これだけ渡したくて」

その言葉とほぼ同時に聞こえた、“コトン”という、机に何かを置くような音。


そして次に聞こえたのは――……

「芹沢先生、誕生日おめでと」

今野先生のそんな声と数歩分の足音。


それに、医局の扉が閉められる音だった。


――誕生日。

ハッとした私は、力が緩んでいた城戸の腕の中から抜け出して、今野先生を追いかけようとした。


だって、こんなの酷過ぎる。


机の上には、綺麗にラッピングされた、小さな箱。

私は今野先生からの、せっかくの食事のお誘いを断ったのに、彼はこれだけを届ける為だけに、わざわざここまで来てくれたんだ。


あんなところを見られて、何て声をかけたらいいのか、正直分からない。

でも、お礼だけでも、ちゃんとその顔を見て言わないといけないと思った。