犬と猫…ときどき、君



「ごめん」

ゆっくり伸ばされた城戸の指。

それが私の頬に、そっと触れた。


「気付けなくて、悪かった」

「ううん……」

やっとの思いで口にした私の言葉は、小さくて掠れていて、きっとすごく聞き取りにくい。


「なぁ、胡桃」

「……ん?」

城戸が、もう一度私の名前を呼んだ。

だから私は、ゆっくりと顔を見上げようとしたんだ。


それなのに――……。

私は、そうする事が出来なかった。


「頼むから……っ」

小さく声を震わせた城戸の、その続きのない言葉を――私は、城戸の腕の中で聞いていたから。


――ダメだ。


「ちょっと、城戸……っ」

離れないと。

早く城戸から離れないと。


「胡桃」

「……っ」

私を抱きしめる腕の力を強めた城戸に、気付かれてしまう。


「お願いだから……離してっ!!」

こんなにも速まった胸の鼓動。

それに気付かれるのが、怖かった。


だけど、その腕から抜け出そうとする私を、まるで押さえ付けるように抱きしめた城戸は、

「ちゃんと守るから、話してくれよ……」

絞り出したような、掠れた小さな声で、そんな意味の分からない言葉を口にしたんだ。


「――え?」

ゆっくりと顔を上げると、城戸はハッとしたように目を見開いて、まるで私の視線から逃げるように、その瞳を伏せてしまう。


“ちゃんと守る”?

一体、誰から?

それでなくとも混乱する頭が、ますますゴチャゴチャになる。


そんな私の肩に、コツンと乗せられた城戸の頭。


「……っ」

その昔と変わらない黒髪から香ったのは、やっぱり知らない煙草の香り。


「ねぇ、城戸」

それでも、無意識に伸ばしてしまった指をそこにそっと絡ませれば、あの頃と同じ、城戸の香りが強くなる。


私の声に、鎖骨の辺りが熱くなったのは、きっと城戸が大きく息を吐き出したから。


「城戸……」

「どういう意味?」――そう訊ねようとして、口を開きかけた私の背後で、扉が“カタン”と、小さな音を立てた。