犬と猫…ときどき、君




あの後、私に小さく「ごめん」と呟いて、もう一度ゴハンに誘ってくれたマコ。


申し訳ないと思ったけど、その誘いを断って彼女を見送った私は、一人医局に戻ってロッカーからカバンを取り出した。


机にチラリと視線を送ると、まだ城戸は帰っていない様子。

きっと、デンちゃんの術後の状態を診ているんだ。


「……」

一瞬、悩んだ。

いくら診療が終わったからって自分だけ一人で先に帰るのは気が引ける。

何より、私が残っているような時、城戸はいつも私が戻るまで待っていてくれるから……。


だけど、今のこの状態で、城戸と二人っきりになるのは正直きつい。


きっと城戸はいつも通り接してくれると思うけど、もしも万が一この頬の事に触れられたら……。


「やっぱり帰ろう」

もう何度目かも分からない溜め息を漏らした、丁度その時だった。


「……お疲れ」

「あ……お疲れ様」

タイミング悪く、左手にあるドアがガチャリと音を立てて開いた。


「デンちゃん、診てたの?」

「おー」

もちろんドアを開けたのは城戸で……。


「落ち着いてた?」

「あぁ」

「そっか。やっぱり城戸のオペって凄いよね!」

「……」

「傷口とか、すごい綺麗だし! それに――」

「胡桃」


出来れば、あやふやにして誤魔化して、さっさと帰ってしまいたかった。

だって、こんな風になるんじゃないかって、どこかで解っていたから。


私の言葉を遮った城戸が、静かに私の名前を呼ぶ。


「聞いていい?」

「……」

そのまま私の正面に歩み寄り、まるで私が逃げるのを防ぐように、目の前に立った。


久し振りに城戸の唇から紡がれた自分の名前と、私を見下ろすその瞳に……どうしても、指先と呼吸が震えてしまう。


そんな私の頬の辺りに、その黒い瞳が一瞬向けられる。