犬と猫…ときどき、君


「昨日、診察が終わって帰ろうとしていた時に、急患が入ったの」

「……」

「グレートデンの胃捻転で……。それが一刻を争う状態なのは、分かるよね?」


私のその言葉を聞いても、彼女は睨むような表情を崩さない。


「どうしてもオペが必要で、彼が誕生日だって事は分かっていたけど、帰すわけにはいかなかった」

敢えて、城戸の事を“彼”と呼んだのは、オーナーさんに争いの対象が誰なのかを気付かれないようにする為。


だって、城戸が仕事をし辛くなったら……。

そう考えると“彼”という言葉を遣うのが妥当だと思ったんだ。


「彼がいたから、あの子を助けられたの」

同じ獣医だったら、分かって欲しい。

そんな想いを言葉に込めながら、ゆっくと松元さんに話しかける。


いつだって必死に命と向き合う城戸の彼女だったら、きっと分かってくれると思っていた。

だけど私の耳に届いたのは、その期待を大きく裏切る言葉だった。


「そんな他人のイヌの事なんて、どうでもいい!! 助手だって、他の暇してるアニテクにでもやらせればいいじゃない!!」

「……」

「及川さんだっているんだから、呼び出せばいいでしょ!? どうしてハルキさんがやらないといけないの!?」

「松元さん、お願いだから……」


このままじゃ、城戸にまで迷惑をかけてしまう。

そう思って、松元さんの言葉を遮ろうとしたのに……。


「ハルキさんも、そんな事に必死になってホント、バカみたい!!」

「え?」

「たかが一頭死んだって、この病院は他にも患畜いるんだから困らないでしょう!?」

「……っ」


――自分の取った行動に、自分でも驚いた。


松元さんの口から吐き捨てられたその言葉に、考えるよりも早く、私の手の平らが彼女の頬を打っていた。


だって、どうしても許せなかった。


「なにすんのよ……っ!!」

頬をおさえたまま、怒りで震える松元さんに、私の声も思わず大きくなる。


「あなたは獣医でしょう!?」

「だったら何!?」

「それに……あいつの彼女でしょう!? だったら、どうして!? どうして分からないの!?」

「……」

「あいつがどれだけこの仕事を大切にしているか、どうして分かってあげられないの!?」