犬と猫…ときどき、君




「おはよ」

「あ……おはよう」

「デンちゃん、変わりない?」

「うん。落ち着いてるよ」

「そっか」


次の日、城戸は驚くほどいつも通りだった。

ICUの前にしゃがみ込んでいた私の隣に座る城戸を、チラッと盗み見してみる。

聴診器を耳に、デンちゃんの心音を聞く城戸の横顔は、いつも通りの城戸の顔。


――だけど。


「昨日ありがとな。イチゴの」

前を向いたまま突然そう口にしたから、昨日の事をなかった事にするつもりはないみたい。


「ううん」

「美味かった」

「そっか。じゃーよかった」


まるで、日常会話を交わすような、そのやり取り。

敢えてそうしたのは、きっと泣いてしまった私への城戸の気遣いだと思う。


だから私も、普通にしないとと思ったんだ。

そうしないと、城戸の気遣いを無駄にしてしまうから……。


「でも、人にお礼を言う時はさー」

「あ?」

「ちゃんと目を見て言いなよ」

「……」

「まったく! 今時の若い子はダメだねー」

「はいはい。アリガトウゴザイマシター」

「うわぁ……。感じ悪っ!」

「うっせ!」

「あははっ!」


本当は誰かに、話を聞いて欲しかった。


自分で自分の気持ちが分からなくなって混乱している私には、きっと客観的に意見してくれる人が必要で。

いつもだったら、やっぱり一番の相談相手はマコなんだけど、今彼女に話をしたら、また城戸への不信感を募らせてしまう気がして、話せなかった。


苦しい気持ちはあったけれど、デンちゃんの容態も落ち着いていたし、変なオーナーさんも来ない。


城戸も私も、いつも通り。

本当に平和な一日だと思っていた。


だけどそれは、待合室で受付をしていたサチちゃんのその一言から、一気に暗転する。


「胡桃先生! お客さんなんですけど」

「誰?」

「えっと、大学の後輩とか言ってましたよ」

「後輩?」

「はい」


OG訪問の連絡なんてもらってないし……。

誰だろう?


全く心辺りのない私は、小さく首を傾げた後、サチちゃんと一緒に待合室に向かったんだ……。