犬と猫…ときどき、君


「はぁー……もー疲れたぁ!!」

病院に戻り、医局のドアを開けた私は、息苦しさに胸を押さえながらその場にしゃがみ込んだ。


「……何ごと?」

もう何年振りかの長距離ダッシュをした私の前に首を傾げながら立つ城戸は、やっぱり困惑顔。

そんな城戸の目の前に、手に持っていた袋を差し出した。


「ごめん、こんなのしかなくて」

「へ? 何コレ」

「……お祝いする」


私の言葉を聞きながら、ガサガサと袋の中を覗き込んだ城戸の手がピタリと止まる。


――やっぱり、やめた方が良かったかな。


一瞬、頭に過った後悔。

だけど、そんな私の目の前で、城戸は何故かフッと小さく笑った。


そして私の頭をそっと撫でた後、その袋の中身を机に置いて、無言で部屋の隅にある棚をガサゴソ漁り始める。


「き、城戸? 何してんの?」

「んー? 探し物ー……あ、あった」


振り向いた城戸は、手に何かを持ったまま、ワケが分からないでいる私の横を通り過ぎ、今度はドアの横のスイッチを押して、部屋の電気を消した。


「えっ!? な、何!?」

急に暗くなった部屋を、ブラインドから差し込む街頭の僅かな灯りが照らす。


だけど次の瞬間、ワタワタする私の耳に届いたのは、ライターのフリント・ホイールがこすれると音と、それに火が付く音。


「――え?」

驚く私の目の前に、ぼんやりとした柔らかい光が灯される。


「よしっ!」

そして目の前には、腰に手を当てながら、それを満足げに眺めて頷く城戸の姿。


「芹沢ー」

「え?」

戸惑う私に向けられるその瞳が、少しだけ細められた。


「歌ってよ。マイナーコードの“ハッピーバースデー”」

「――……っ」


ホント、やめて欲しい。

どうしていつも、こうやって思い出させるんだろう。


「一緒に歌おーか?」

“くくくっ”と、楽しそうに笑う城戸。


「……」

「なぁ、歌って?」

その優しい声に、胸がしめつけられる。


ダメなのに。

こんな気持ちを抱くこと自体、ダメなのに……。