結局、全部の仕事が終わったのは、二十三時半過ぎ。
それにも関わらず帰る気配のない城戸は、机に座って頬杖を付きながら、テキストに視線を落としている。
帰らなくていいのかな?
そんな事を思いながら、アニテク部屋で着替えを終た私が医局に戻ると、城戸も丁度着替えを終えたところで。
「送ってく」
机の上に置いていた車のキーを手に取って、そんな言葉を口にした。
だけど、今日ばかりは絶対それに甘えるわけにはいかない。
だって今日は――……。
「城戸、誕生日でしょう?」
「は?」
きっと松元さんも、待ってる。
「私、泊まりでデンちゃん診るから。松元さん、待ってるでしょう?」
ちゃんと、上手に笑えていたはず。
それなのに目の前の城戸は、困ったようにフッと笑って言ったんだ。
「会う約束なんかしてないから、無駄な心配すんな」
「――え?」
「ん?」
「誕生日でしょう?」
「おー、そうだな」
「どうして?」
困惑する私に向けられるのは、相変わらず困ったような城戸の笑顔。
「お前送ったら、俺はここに戻って来てデンちゃん診ながら寝るだけ」
「もークタクタだっつーの」と付け足した城戸が、私の背中をポンッと押して、帰るように促すから……。
「城戸!」
「あ?」
「ちょっとだけ待ってて!!」
「は!?」
何事かと呆気にとられる城戸にそう言い残した私は、お財布を掴むと病院を飛び出した。
――こんな事、していいのかは分からない。
だけど今年だけ。
今日だけ。
「はぁ……っ!」
急いで向かった先は、数百メートル離れた所にあるコンビニ。
ノロノロと開く自動ドアを足早に抜けた私は、冷蔵ケースの前に立って、目の前に並ぶそれを一通り眺める。
「えっと……」
目に留まったのは、苺のケーキ。
いっつもイチゴミルクを飲んでいた城戸は、こっそり苺が大好きで、それを知っていた私は、その小さなケーキを手に取ると、急いでレジに向かった。
店員さんがレジを打つ間、腕時計に視線を落とすと、時間は二十三時四十分。
――まだ、間に合う。
お釣りを受け取った私は、慌ただしくコンビニを出て、来た道を急いで引き返した。

