「よしっ! 着替えて帰ろう!」
気合を入れ直し、スクラブを脱ごうとその裾に手をかけた時だった。
「芹沢!! 急患っ!!」
電気を消した廊下に響き渡る城戸の大きな声に、肩がビクッと跳ね上がった。
急患……。
その響きに、心臓が大きな音を立てる。
“急患”というその言葉で思い出したのは……米原ハナちゃんの事。
助けられなかった、ゴールデンのハナちゃん。
ドクドクと、嫌に騒ぎ出す胸の辺りをグッと押さえて、ゆっくりと深呼吸を数回繰り返す。
――大丈夫、大丈夫。
自分に言い聞かせるように、心の中でそうくり返し、私は急いで診察室に向かった。
「腹部でレントゲンの準備して!!」
診察室に入るや否や、緊迫した声でそう告げた城戸が抱えていたのは、ぐったりとしたクレートデン。
「この子、金沢デンちゃんだよね?」
「そう」
その子は、いつも元気で耳掃除くらいでしか来た事がなかったデンちゃんだった。
「症状は?」
「多分、胃捻転《いねんてん》」
レントゲン室に向かう廊下で、早口に問診の内容を説明した城戸から、抱えられているデンちゃんに視線を落とす。
確かに、お腹がパンパンに腫れ上がっている。
それに、呼吸もかなり苦しそう……。
現像が終わったレントゲンを確認すると、やっぱり胃捻転。
胃捻転は大型犬に多い病気で、何かの原因で胃が捻じれてしまう病気。
胃が捻じれる事で、体の血液の循環が上手くいかなくなって、ショック状態を引き起こすんだ。
「すぐにオペしないと……」
「オーナーに説明してくるから、オペの準備しといて」
小さく呟いた私に、一瞬視線を落とした城戸は、同意書を手に取ると、オーナーの元に向かう。

