犬と猫…ときどき、君


マコ達を帰した後、全てのカルテを消化した私達。


「お疲れ様」

「おー、お疲れー」

白衣を脱いでロッカーから着替えを取り出した私は、それを抱えて城戸に声をかけた。

城戸がいるから、アニテク部屋で着替えをしようと思ったんだ。


だけど、医局の入口まで歩いて……。

思い出したのは、お昼に聡君に言われた事。


“今年もあいつの誕生日、みんなで祝ってやらないの?”


「……」

「どした?」

立ち止った私を不思議に思った城戸が、後ろからそう声をかける。


“何か可愛そうじゃねーか?”


「――誕生日、おめでとう」


聡君にはあんな風に言ったのに……。

それなのに私は、その言葉を口にしてしまった。


「そういう事は、ちゃんと顔見て言えよー」

ドアの方を向いたままポツリとそう口にした私に、呆れたように城戸が笑う。


そうなんだけど……。

改めて言うのも、何だか気恥ずかしい。


だから私は、顔だけを城戸の方に向け、

「おめでと」

その一言だけを、もう一度口にした。


「どーも」

素直じゃない私の、残念すぎるお祝いの言葉には勿体ないくらい、ニッコリと笑った城戸。


医局を出てアニテク部屋に入った私は、ソファーにへなっと座り込んだ。

「はぁー……」

口を吐いて出たのは、大きな溜め息。

これだけの事で、こんなにも気力と体力を消耗する意味が分からない。


だけど城戸のちょっとふざけたような、でも嬉しそうに笑った顔を見たら――……。


「言ってよかったかも」

単純な私はそんな風に思って、少し嬉しくなってしまうんだ。


これで、また一つ城戸との思い出を、過去の物に出来た?

昔のようにはいかないけれど、それでも“おめでとう”って言えたんだから、きっと出来たはず。


そう思った。

そう思ったら……一瞬嬉しくなって温まった心が、小さく痛んだ。


でも、大丈夫。

ちょっとずつ忘れていけばいいんだもん。