「もしもし、及川ですけど。今、実験中ですか?……あー、すみません」
話の内容と、敬語を使っているところを見ると、多分研究室の“上の人”。
大学院生では聡君は一番年上だから、そう考えると、きっと講師か准教授、もしくは教授。
「あー、はい。……はい」
「……」
「で、すみません。再来月の頭なんですけど、やっぱりセミナーに出たいなぁと」
――え?
「はい。そうです、沖縄の」
聡君の話に、城戸の指摘なんかすっかり忘れた私は、眉間にググッと皺を寄せてしまう。
それなのに、目の前の聡君は「違いますよー、レジャーじゃなくて」なんて言いながら、楽しそうに笑っていて。
これは一体、どういう事?
私のそんな疑問をよそに、話をどんどん進めた聡君は、
「じゃースイマセン。ちんすこう買って来るんで」
最終的に、ちんすこうで手を打たせてもらったらしい。
「……」
「ん?」
「どういうこと?」
電話を終えて、携帯をパタンと折りたたんだ聡君に、訝しげな視線を送る。
すると彼は――。
「俺が沖縄一緒に行くよ」
ケロリと、そんな言葉を口にした。
「は!? 何で!? 何でそうなるの!?」
「だって胡桃、行きたいんだろ?」
「そう……だけどっ!」
「俺が一緒にいれば、あの女が来てても胡桃は一人にならない」
そういう問題なんだろうか……。
でも確かに、もしも城戸が行くとしても、そこに松元さんがいたら私は一緒にはいられない。
今野先生だって、自分の病院の先生と一緒に行動するだろうし。
だとしたら、聡君がいてくれるのはありがたいんだけど……。
「――って事で、俺の分も一緒に申し込んどいてね」
私の頭をいつものようにナデナデした聡君は、そう言いながらにっこり笑った。
「ごめん」
「何で?」
「巻き込んで、ごめんね?」
「謝るな事じゃないだろ」
聡君は、いつだって私に甘いんだ。

