犬と猫…ときどき、君




この土地の、秋は早い。

それでも今年は残暑が厳しくて、いつまで経ってもクーラーが消せない程だった。


「なぁ……何とかして、この暑さ」

「……ごめん、ムリ」

「お誕生日さんのお願いだろーが!! もー、マジであちぃ」


もう暑すぎて、白衣なんかとっくの昔に脱ぎ捨てていた城戸が、ワケのわからない言葉を口にしながら、グリーンのスクラブの胸元をバタバタとさせた。


それを見たマコが「城戸うるさい!!」なんて、オーナーの目も気にせず叱りつけている。


今日は、城戸の誕生日。

だからって、私がその“お誕生日さん”のお願いを叶えてあげられるワケもなく。


「暑い暑い言ってると、ますます暑くなるよ?」

「あちぃー」


この男は……。


「エアコン点いてるんだから、そんなに暑くないでしょ?」


でも確かに、色んな患畜とオーナーが出入りするから、病院の温度は少し高めに設定してある。

クーラーは動物にもあまり良くないし、待合いでじっとしながら待っていると段々寒くなってくるし。


「お前、診察室に原さんとマルと三人でいてみろよ……」

「あー……」


原さんというのは、物凄く体格のいい、お相撲さんのようなオーナーさんで、マルちゃんは、原さんの飼っているブルドック。

それは確かに暑苦しいかも。


「はぁ……。まぁいいや。注射打ったら終わりだし」

うなだれながら、カチャカチャと注射の準備をする城戸は相変わらずいつも通り。


目の前には、城戸の綺麗な指先。

それが空気を抜く為に、ピンピンッとシリンジを弾く。


昔から、城戸のその動作を見るのが好きだった。


「……何?」

「……っ! な、なんでもない」

いつの間にか、私に向けられていた城戸。

彼の動きに瞳を奪われていた私は、慌ててそこから視線を逸らした。


「ふーん。あっそ」

あれから城戸は、私の誕生日の事に触れてくる事もなければ、今野先生の話題も出してこない。


私はというと、結局今野先生からの誘いは断って……。

誕生日は予定なし。


気持ちは嬉しかったけど、それでもやっぱり、今の関係で二人で誕生日を過ごすのは違う気がしたんだ。


でも本当に、私はどうしたいんだろう?


何がしたいのかわからないまま、今野先生の優しさに甘えてしまった自分の軽率な行動を、最近後悔し始めていた。